桑名市が全国初の「カスハラ認定」!カスタマーハラスメント防止条例の意義とは

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サービス業で働く人たちを悩ませる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。

その対策として、三重県桑名市が2024年に施行したカスハラ防止条例が、全国初となる「カスハラ認定」を行いました。
罵声や過大請求、土下座の強要など、常識を超えた行動に対して市がどのように動いたのか――。

この記事では、条例の内容や今回の事例の詳細、全国に与える影響について、地域住民としての視点でわかりやすくお伝えします。

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目次

はじめに

桑名市が日本初の「カスハラ認定」を実施

「カスハラ」という言葉、最近よく耳にするようになりました。「カスタマーハラスメント」の略で、サービス業などで働く人が、お客から理不尽な要求や暴言、暴力的な態度を受けることを指します。

今回、三重県桑名市が全国で初めて、こうした行為を正式に「カスハラ」と認定したというニュースが話題になっています。

きっかけは、市内の運輸業者からの相談でした。あるお客が、配送中に破損した荷物に対して過剰な弁償金を求めたうえ、「うそつき」「ばかやろう」などの暴言、さらには土下座を要求し、その様子を撮影しようとまでしたというのです。

市はこの内容を調査し、専門家で構成された委員会の意見を受けて「これはカスハラに該当する」と正式に認定。市のホームページで公表し、加害者に警告文書を送りました。

背景にある条例と社会的関心の高まり

今回の認定は、桑名市が今年4月に施行した「カスハラ防止条例」に基づくものです。

この条例は、カスハラを受けた市民や事業者を保護し、必要に応じて加害者に対し警告や氏名公表といった対応ができる仕組みを持っています。全国的にもこうした条例を持つ自治体はなく、まさに先進的な取り組みといえるでしょう。

背景には、サービス提供者が不当なクレームや暴言にさらされる現実があります。とくに対面でのやり取りが多い運輸業、飲食業、医療・介護現場などでは深刻な問題となっており、従業員の離職や精神的なダメージにもつながっています。

桑名市の今回の動きは、そうした現場の声に応え、自治体として一歩踏み出した象徴的な事例なのです。

1.桑名市のカスハラ防止条例とは

条例の成立と施行の経緯

桑名市が「カスタマーハラスメント防止条例」を施行したのは、2024年4月のことです。

この条例は、接客やサービス提供の場で理不尽な言動や暴力的な要求を受けた市民や事業者を守るためのものです。背景には、全国的にカスハラが問題視されているにもかかわらず、これを具体的に取り締まる法律がないという現状があります。

条例制定のきっかけには、地元の運輸業者や中小企業から寄せられた「現場でのハラスメントが日常的になっている」「従業員が辞めてしまう」といった声がありました。

こうした切実な現場の声に応える形で、伊藤徳宇市長を中心に検討が進み、弁護士や労働関係の専門家を交えた議論を経て、条例が成立したのです。

認定の条件と手続き

この条例では、「要求の内容に妥当性がなく、言動が社会常識から外れている」「相手の業務や精神に著しい悪影響を与える」ような行為がカスハラとみなされます。

今回の事例では、客からの過剰な賠償要求や「土下座して撮影するぞ」といった脅迫めいた発言が、まさにこの基準に該当しました。

認定の手続きとしては、まず被害を受けた事業者が市に相談し、その後、市が設置する「カスハラ対策委員会」が事実関係を調査します。

委員会は弁護士や学識経験者など6名で構成され、証拠映像や証言をもとに、該当性の有無を審議し、市長に答申を出します。

制裁措置:氏名公表の可能性

条例の特徴的な点のひとつに、加害者が警告を無視した場合、「氏名の公表」という制裁があることが挙げられます。

これは、再発防止のための強いメッセージとして位置づけられており、他の自治体ではほとんど見られない厳しい措置です。

ただし、氏名公表はあくまで最終手段です。まずは書面での警告が出され、それでも改善が見られない場合に限り、公表が検討されます。

市としては、この制度を乱用するのではなく、適切に運用しながらカスハラの抑止力として機能させたい考えです。今回も、該当する客に警告文書を送付することで、まずは再発防止を促しています。

2.今回のカスハラ事例の概要

運輸業者への過大請求と暴言の内容

今回、桑名市が「カスハラ」として正式に認定したのは、運輸業者がある客から受けた行為でした。

問題となったのは、配送中に荷物が破損したことに端を発する一連のやり取りです。

客は、運輸業者をわざわざ飲食店に呼び出し、荷物の実際の価格を超える過大な弁償金を要求。これはすでに常識を超えた要求でした。

さらに問題はエスカレートします。「ばかやろう」「うそつき」などの暴言を繰り返し、業者を精神的に追い詰めました。極めつけは「土下座しているところを撮影するぞ」と脅しをかけ、土下座を強要したこと。

こうした行為は単なるクレームの域を超えており、明らかに相手の尊厳を踏みにじるものでした。

現場で直接対応していた従業員にとっては、非常につらい経験であり、今後の業務への影響も懸念されるほどの深刻な内容だったといえます。

証拠として提出された映像の役割

市がこの事例を「カスハラ」として正式認定できた背景には、運輸業者側が提出した証拠映像の存在が大きく関わっています。

実際に撮影された動画には、客の発言や土下座の強要といったやり取りが記録されており、委員会による事実認定の決め手となりました。

こうした証拠は、感情的な訴えだけではなく、客観的な裏付けとして極めて重要です。

市カスハラ対策委員会の委員長である弁護士・森川仁氏も、「録画などの証拠が提出されたことで、事実関係の確認が非常にスムーズだった」と話しています。

今後、同様の被害を受けた際にも、こうした記録がカスハラの認定や対策の鍵になることは間違いありません。

市カスハラ対策委員会による認定プロセス

今回の事例では、市の設置する「カスハラ対策委員会」が、事案を二度にわたって審議しました。

この委員会は、弁護士や有識者など計6名で構成されており、第三者の視点から冷静かつ公平に内容を精査する仕組みになっています。

委員会は、「要求内容に妥当性がなく、手段・態様が社会通念上不相当で、就業環境を害する恐れがある」と判断し、市長に対して「これはカスハラに該当する」との答申を提出。

これを受けて、伊藤市長が正式に認定し、市のホームページで概要が公開されることとなりました。

このように、条例のもとで明確な手順と判断基準が設けられており、感情論に流されることなく、適切なプロセスを経たうえで認定される仕組みになっている点は注目に値します。

3.条例の意義と全国への波及効果

伊藤市長の思いと自治体の役割

今回の認定を通じて強く印象に残るのは、桑名市の伊藤徳宇市長が「カスハラをなくしたい」という強い意志を持って取り組んでいるという点です。

市長は、取材に対し「この1件の認定が、今後の抑止力につながることを願っている」と語っています。つまり、この条例が市民や事業者の安心につながり、理不尽な要求をする側へのけん制となることを目指しているのです。

自治体としての役割も見逃せません。本来、こうしたハラスメントに関する法律は国が主導すべき分野ですが、国による法整備が遅れている中で、桑名市は「地域の現場からできることをする」という姿勢で独自の条例を施行しました。これは、地方自治の本来の力を発揮した事例といえるでしょう。

法制度整備の必要性と国への提言

とはいえ、カスハラの問題は桑名市だけに限らず、全国各地の事業者が直面しています。

特に、公共交通、医療、福祉、教育など、住民と接する機会が多い職場では、深刻なカスハラの被害が報告され続けています。

伊藤市長も明言しているように、本来は国全体でルールや基準を整える必要があります。

たとえば、どのような行為がカスハラに該当するのか、どんな対応が認められるのか、といった共通のガイドラインが整えば、全国どこでも公平な対応が可能になります。

桑名市のように条例を整備する自治体が増えれば、やがて「国の法律が追いつく」流れも生まれるかもしれません。今回の取り組みは、そのための第一歩といえるでしょう。

今後の抑止力としての期待と課題

条例による正式な認定と公表、さらには加害者への警告文書の送付という一連の対応は、多くの人々に「やりすぎなクレームは許されない」という強いメッセージを与えたはずです。

これまで声を上げられなかった被害者にとっても、相談しやすい空気が広がる可能性があります。

一方で、運用には慎重さも求められます。正当な苦情まで「カスハラ」と誤って扱われることがないよう、証拠の確保や公平な審査体制の維持が不可欠です。

また、氏名公表という強い制裁措置に対しては、プライバシーや名誉毀損とのバランスをどうとるかも、今後の課題となります。

それでも、桑名市が今回示した「声なき声に耳を傾ける姿勢」は、多くの自治体にとってのモデルケースになりうると感じます。

全国に広がるカスハラ問題への一石を投じた、非常に意味のある動きだったと言えるでしょう。

日本全体におけるカスハラの実態

  • 直近3年以内にカスハラ被害を経験した人の割合は、サービス職従事者では約 20.8%、全体では 35.5% にのぼります
  • また、全体の調査では46.8%の人が過去にカスハラ被害を受けた経験があり、2020年と比べやや減少傾向にもあります 。

企業調査から見た実発生率

  • 直近1年間に「カスハラや不当な要求」を受けたことがある企業は約 15.7%。特に小売や金融業など、個人取引が多い業界で高い傾向です 。
  • 厚生労働省の調査では、過去3年間に相談があった企業のうち顧客からの著しい迷惑行為(カスハラに該当)と企業が判断したケースは86.8%でした 。

業界別の実態(企業調査・電話対応調査などから)

  • 直近1年で企業がカスハラを受けた割合15.7%で、そのうち
    • 小売業:34.1%
    • 金融・保険業:30.1%
    • 不動産業:23.8%
    • サービス業:20.2%
      対して、製造業(7.8%)、運輸・倉庫業(12.9%)、卸売業(13.1%)は比較的低く見られました 。
  • 宿泊・飲食系の現場担当では、調査によると 72% が直近1年でカスハラを受けた経験あり。飲食店でも 64.8% と高率です。また、道路旅客運送業(タクシー・バス等)でも 55.5% にのぼります 。
  • 電話応対業務では全体の75.3% がカスハラに遭遇。業界別では、福祉関連業が 100%、建設業が 88.9%、官公庁・公共機関が 83.9% と非常に高率でした 。

年代別のカスハラ行為の特徴

👥 年代・属性別の傾向

  • 被害経験率(3年以内での被害経験)は、サービス職全体で 35.5%、そのうち 20.8% が直近3年以内と報告されています 。
  • 職種別では、最も経験率が高いのは「福祉系専門職(介護士・ヘルパー)」で 34.5%。次いで
    • 顧客サービス・サポート職:30.7%
    • 受付・秘書業務:30.0%
    • 医療専門職(医師・看護師など):28.9% 。
  • 年代別の加害者分布を見ると、加害者の多くは 40代から60代以上に集中しており、20代は比較的少なく 約4.2% にとどまります。
  • 被害を受ける側の年代では、男女ともに「若年層」の被害率が比較的高い傾向があります 。

若年層(20〜30代):被害多く、頻繁な繰り返しが目立つ

  • 経験率が最も高く、被害回数も多い年代です。若い従業員を対応することが多く、相談件数も増加傾向にあります 。
  • 主な行為は「暴言・罵声」、「しつこく同じクレームを繰り返す」、「長時間拘束」などが目立ちます 。

中高年(40〜60代):加害者が多く、威圧的・脅迫的な傾向

  • カスハラの加害者の中心は40〜60代の男性で、全体の約80%を占めるという結果もあります 。
  • この世代の加害者による行為の特徴としては、「威嚇的・乱暴な態度」「高圧的な口調」「長時間の拘束要求」「威圧・脅迫」などが高率です 。

高齢層(60代以上):非常に長時間・厳しい要求が特徴

  • 調査では、60代〜70代の方がカスハラ行為者として目立つ傾向があり、対応者は長時間拘束されるなど被害の深刻さが強いとされています 。
  • 特に医療・介護・福祉業界での対面クレームでは、「人格否定」「土下座強要」「執拗な要求」が多く報告されています 。
分類傾向と特徴
年代別被害率60代男性が最も被害経験高、30代女性の「頻繁にある」率も高め
加害者年代中高年(40〜60代以上)が多く、20代や30代からの加害は少ない
被害内容暴言・繰り返しクレーム・脅迫が多く、職種により内容が異なる
地域差東海圏では被害率がやや高く、三重県は全国でも上位に位置
対応業界電話応対業界での被害が顕著、特に福祉関連・公共機関で高頻度

年代×性別×業界:特徴的傾向を整理

年代/性別業界主な被害内容・傾向
若年層(20〜30代)男性・女性接客対応系(小売、飲食、交通など)暴言・罵声、繰り返されるクレーム、長時間拘束など
女性(特に30代)医療・介護・福祉土下座強要や暴行、SNS投稿など過激な被害率が高い(経験率20%超)
中高年(40〜60代)男性幅広い業種(初対面顧客中心)威圧や脅迫的な態度、不当要求(高圧的な態度が目立つ)
高齢層(60代以上)男性医療・福祉・公共サービス長時間拘束、人格否定、要求の過激さが特に強い

実施回数と深刻度(従業員調査より)

  • 直近1年にカスハラを受けたことがある担当者64.5%。うち
    • 1〜5回:53.1%
    • 6回以上:11.4% 。
  • 特にサービス業では、6回以上の被害が多く、11〜15回経験した担当者のうち 約44.4% がサービス業出身でした 。
  • 若年層の被害者は、怒鳴られたり執拗に同じ内容を要求されたりといった精神的な負荷が大きく、特に小売や交通業界で多い。
  • 女性(特に30代)は医療や福祉分野で、暴行や土下座強要など過激な被害傾向がある。
  • 中高年の男性が主要な加害者層であり、対面・初対面で高圧的な対応を取りやすい。
  • 業界によって被害のパターンが分かれるため、研修や相談窓口、対応マニュアルは、年代・性別・業種の組み合わせごとに設計する必要があります。
分類主な傾向・数値
業界別小売・金融・宿泊・飲食など、個人対応が多い業種で高率
電話応対では福祉・建設・公共が特に高
職種別福祉職が最も高く、接客・受付・医療系も高率な被害経験あり
年代別若年層ほど被害率高め。加害者は主に40代〜60代以上
頻度年間6回以上の発生もあり、サービス業では特に深刻

これらのデータは、桑名市のような自治体が条例を通じてカスハラへの対応を具体化する意義を裏付けています。被害規模は小さくなく、業界・年代を問わず広範に存在する問題です。

まとめ

三重県桑名市が実施した「カスハラ認定」は、日本で初めての試みであり、社会に大きなインパクトを与えました。条例の整備から、実際の認定、警告文書の送付に至るまで、一貫したプロセスに基づいて対応したことで、カスタマーハラスメントへの具体的な対抗手段が示されたことになります。

背景には、現場で日々対応する事業者や従業員の苦悩がありました。今回の事例を通じて、「顧客だからといって何をしてもいいわけではない」という社会的な合意が、少しずつ形になり始めているのではないでしょうか。

伊藤市長が語るように、今後は国全体での法制度整備が求められる段階です。桑名市のような地方の取り組みがきっかけとなり、全国でカスハラ対策が進むことを願ってやみません。被害に悩むすべての人が安心して声を上げられるような環境づくりが、いま私たちに求められているのです。

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