動物園を訪れたことのある方なら、一度は“忘れられない動物”に出会った経験があるのではないでしょうか。
私にとって、それが釧路市動物園のアムールトラ「ココア」でした。
生まれつき後ろ足に障害を抱えながらも、懸命に生きるその姿は、見る人の心にまっすぐ届き、「がんばるって、こういうことか」と気づかせてくれました。
今回は、17歳で旅立ったココアの生き様と、彼女が全国からどれだけ愛されていたかを、ひとりの“動物好き”としてご紹介します。どうか最後まで読んでいただけたらうれしいです。
釧路市動物園の人気者「ココア」とは
北海道・釧路市動物園で17年間、多くの来園者から愛され続けたアムールトラ「ココア」。彼女は生まれつき後ろ脚に障害を抱えており、歩くときには足を引きずるような姿が特徴的でした。
それでも、毎日懸命に過ごすその姿は、どこか人間の私たちにも重なるようで、「がんばる姿に元気をもらった」「今日も会えてうれしい」と声をかける人が後を絶ちませんでした。
釧路市動物園の公式サイトでも“特別なトラ”としてたびたび紹介され、彼女の存在は園のシンボルとなっていました。
足に障害を持ちながら生きた17年間の軌跡
普通のトラなら生後数年で力強く走り回るものですが、ココアにはそれが叶いませんでした。
それでも、飼育員たちの工夫と愛情によって、バリアフリー対応の運動場や床材が整備され、彼女は日々を安全に、そして自分らしく生きてきました。
そんなココアの姿に、障害を抱える子どもやその家族も励まされ、遠方から訪れる人も多かったといいます。
彼女の17年は、単に“動物園の展示動物”としてではなく、「生きる意味」や「命の尊さ」を私たちに教えてくれる、そんな尊い時間でした。
1.ココアの生い立ちと障害との闘い
生まれつきの障害と釧路市動物園への移送
ココアは2006年に旭山動物園で生まれましたが、当時から後ろ足にまひのような障害がありました。
歩行が困難で、兄弟たちと一緒に元気にじゃれ合うことも難しかったといいます。
通常なら自然界では生き延びることができないような状態でしたが、動物園という環境で手厚く見守られることで、生きるチャンスを得ました。
その後、2008年に釧路市動物園に移送されます。釧路市動物園では、ココアが安全に生活できるように配慮された専用のスペースが用意されました。
広すぎず、足への負担が少ない構造の運動場や、段差の少ない寝室など、ココアにとって快適な環境が整えられていきました。
トラとしての生活を支えた飼育環境
釧路市動物園の飼育員たちは、ココアの体調や動き方を日々細かく観察し、その変化に合わせて餌の配置や運動時間の調整を行っていました。
たとえば、餌をあえて少しだけ離れた場所に置くことで、彼女が無理なく歩く習慣を保ち続けられるように工夫されていたのです。
また、足腰の筋肉を維持するために、ぬかるみにくい土や滑りにくいマットが使われていました。
さらに、ココアが不安を感じないよう、掃除や健康チェックの際にも、飼育員が必ず声をかけて安心させるなど、心のケアにも努めていたといいます。
こうした細やかな配慮の積み重ねが、彼女の穏やかな生活を支えていたのです。
訪問者に勇気を与えた姿
ココアの姿は、見た人の心に強く残るものでした。障害があっても一歩ずつ自分の足で歩き、草のにおいをかぎ、時には気持ちよさそうに日なたぼっこをする様子は、まさに“命の尊さ”を体現していました。
特に、病気や障害と向き合う子どもたちにとって、ココアは“がんばる仲間”のような存在だったと言います。
実際に、「うちの子も足が悪くて悩んでいたけど、ココアに会って前向きになった」という声が動物園に寄せられることも多かったそうです。
来園者がココアにそっと語りかけたり、手紙を送ってきたりすることも珍しくなく、彼女は“ただの動物”ではなく、“心の支え”として多くの人の記憶に残る存在となっていきました。
2.全国から寄せられた応援の声
SNSで広がった「#がんばれココア」
ココアの存在が全国的に知られるようになったきっかけのひとつが、SNSでの応援の広がりでした。
特にTwitter(現X)では、「#がんばれココア」というハッシュタグが使われ、多くの人が彼女の写真や動画、飼育員の投稿をシェアし始めました。
ある日、釧路市動物園の公式アカウントが投稿した「今日のココア」が大きな反響を呼び、何千もの“いいね”とリツイートが寄せられたこともありました。
その中には、「病気でつらい時に、ココアの姿を見て元気をもらった」「毎朝、ココアの動画を見るのが日課です」といった温かいメッセージがあふれていました。まさに、言葉を持たない動物が、画面越しに全国の人々と心を通わせていたのです。
子どもたちの手紙と応援メッセージ
動物園には、全国各地の子どもたちから手紙やイラストが数多く届けられていました。
「ココア、がんばってね」「また会いに行くから長生きしてね」といった手書きの応援が、飼育員によってココアの寝室前に飾られていたこともあります。
修学旅行や家族旅行で釧路を訪れた子どもたちが、ココアに手を振りながら話しかける光景は、園内の定番となっていました。
とくに障害をもつ子どもたちが、自分と重ねて「トラでもがんばってるんだね」と話す場面は、周囲の大人たちの胸にも響いたといいます。ココアは、誰かにとっての“ヒーロー”そのものでした。
障害を越えて生きる姿が持つ意味
「障害があっても幸せに生きられる」「弱さを抱えながらも、前を向いて歩ける」。ココアの姿は、そんなメッセージを自然と伝えてくれていました。
単に“かわいい動物”として愛されただけでなく、ココアは“生き方そのもの”で多くの人の心に寄り添っていたのです。誰かにとっての励ましであり、癒やしであり、勇気でもあった。
その存在感は、画面の中や檻の向こうにとどまらず、遠く離れた場所にまで届いていました。
ココアを応援した人たちにとって、その記憶はこれからも色あせることなく、人生のある瞬間を支えてくれる大切な灯りになることでしょう。
3.ココアの最期と釧路市動物園の対応
死亡の経緯と公式発表の内容
2025年6月、釧路市動物園は公式に、アムールトラ「ココア」が17歳で息を引き取ったことを発表しました。
発表によれば、ここ数カ月は食欲や動きにやや衰えが見られ、老化に伴う体調の変化が心配されていたとのことです。
亡くなる当日も飼育員による見守りのもと静かに眠るように旅立ったとされており、ココアらしい穏やかな最期だったと語られました。
園の公式SNSでも同日中に「これまでたくさんの応援をありがとうございました」との投稿があり、ファンからは「本当におつかれさま」「ありがとう、ココア」といったコメントが数千件単位で寄せられました。
涙ながらに見送る来園者の姿も多く見られ、園の入り口には花束やメッセージカードが次々と置かれていきました。
スタッフのコメントと飼育裏話
ココアを長年担当してきた飼育員のコメントも発表されました。「ココアは、本当にがんばり屋さんでした」「歩きづらい日も、痛みがある日も、こちらを見てにっこりするような表情を見せてくれたんです」と語るその声には、深い愛情と別れの寂しさがにじんでいました。
スタッフによれば、ココアには特別な「おやつの時間」があり、好きだったのは鶏肉と氷に包んだフルーツだったそうです。
足を引きずりながらも、その時間になるとゆっくりと歩いて来る姿は、スタッフの癒しだったとも語られています。「動物と心が通じる」という言葉を、まさに体現してくれた存在だったといえるでしょう。
今後の追悼イベントと展示の予定
釧路市動物園では、ココアの功績を称えて追悼展示を企画中です。園内の一角にココアのパネルや、これまで撮りためられてきた写真、子どもたちからの応援メッセージなどが展示される予定です。
また、オンラインでも追悼ページが開設され、全国のファンが自由にメッセージを投稿できるよう準備が進められています。
さらに、園では「障害をもって生きる動物たちの今を伝える」特別企画展の開催も検討しており、ココアの生き様が次世代へと語り継がれていくことになりそうです。
彼女の存在が問いかけた“命の価値”は、これからも多くの人の胸に響き続けることでしょう。
まとめ
ココアの17年間の歩みは、「障害があっても、誰かの希望になれる」ということを私たちに教えてくれました。足に障害を抱えながらも、毎日を懸命に生き、来園者に笑顔と感動を届け続けたその姿は、今も多くの人の心に焼きついています。
釧路市動物園のスタッフの尽力と、全国から寄せられた温かい声援があったからこそ、ココアは“ただのトラ”ではなく、“共に生きた存在”として、特別な意味を持つようになりました。
ココアが遺してくれたメッセージは、障害をもつ動物や人、すべての命に通じるものです。弱さがあるからこそ、やさしさが生まれ、支え合う大切さを感じられる——そんなことを思い出させてくれる存在でした。
これからもココアの物語が、多くの人にとって“心の支え”となり、日々を前向きに生きる力になることを願ってやみません。
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