手術後のわいせつ行為の乳腺外科医師 差し戻し審で無罪判決 

記事内に商品プロモーションを含む場合があります。
スポンサーリンク

この事件は、2016年に手術後の女性の胸を舐めたとして準強制わいせつ罪に問われた乳腺外科医の裁判です。

一審・東京地裁判決は無罪。その後、東京高裁は2020年、逆転有罪で懲役2年の実刑としました。

そして2022年の最高裁判決は、高裁判決を破棄し差し戻し、2023年再び高等裁判所で審議を行い、この度一審を支持して無罪が言い渡されました。

経緯についてご紹介します。

目次

手術後のわいせつ行為で医師を逮捕

2016年5月10日、東京都足立区の柳原病院にて右胸の入腺腫瘍摘出手術を受けた水着モデルの女性患者(当時30歳)が、執刀した乳腺外科の男性非常勤医師(当時43歳)から、術後、「手術していない方の胸を舐められた、男性医師はベット横で自慰行為に及んだ」などと被害を訴えました。

女性はスマホで上司に助けを求め、帰宅後、友人に相談し、友人が警察に通報。通報により千住警察署員が来院し、女性と面談。

病院側は、直ちに女性に関係した職員から手術前から通報に至るまでの状況を聞き取り、病室とベッドの位置・高さなどの現場検証を行い、6月9日に女性の申請に基づき全診療記録を警察署へ持参しました。

7月7日、院内調査による時系列事象や現場検証実施の記録と、それらの検討からわいせつ行為はないと判断。捜査を速やかに終了するように求める申入書を顧問弁護士名で提出しています。

その際に、警察は女性の身体から採取した物から物証があったと明言することはなく、病院側の捜査協力を要請する根拠も理由も示されませんでした。

その後、千住警察からは何の問い合わせもないままま、8月25日突然逮捕されました。

(以上、柳原病院の声明より)

公判における女性の証言(検察側の尋問に答えた、わいせつ被害にあったとする5月10日の状況の概要)の記事

被害女性「医師免許はく奪、長い実刑を」、乳腺外科医裁判

裁判の経緯

男性医師は準強制わいせつ罪で起訴されました。

第一審東京地方裁判所判決(2019年2月20日

無罪(求刑は懲役3年)

主な判決理由

せん妄状態:女性が手術後、意識障害を起こしており、幻覚を見ていた可能性がある。

DNA鑑定の信頼性:DNA量が多いことを示す結果があったが、唾液や触診で付着した可能性があり、証拠として十分な信頼性がない。

証言の信頼性:A氏の証言が幻覚によるものである可能性が高い。

第二審 東京地方裁判所(2020年2月4日)

懲役2年の実刑判決

せん妄状態:女性患者の証言が具体的かつ詳細であり、直接証拠として強い証明力を有する。カルテに「術後隔世良好」の記載があり、検察側証人の精神科医の証言「せん妄に陥っていたことはないか、仮にせん妄に陥っていたとしても、せん妄に伴う幻覚は生じていなかったと認められるから、女性の証言の信用性の判断に影響を及ぼすことはない」を採用。

科学鑑定:「科学的な厳密さの点で議論の余地があるとしても、女性の原審証言と整合するものであって、その信用性を補強する証明力を十分有するものと言える」として、総合的に判断すれば合理的な疑いを容れない立証があると判示した。

最高裁判所(2022年2月18日)

審理差戻し

科学的検討が不十分で「審理不尽の違法がある」として、東京高裁判決を破棄し、高裁に審理を差し戻した。

東京高等裁判所 差戻し控訴審(2025年3月12日)

無罪

一審の無罪判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。

主な争点は女性の胸に男性医師のDNAがどの程度付着しているかを見る「DNA定量検査の正確性」、および「科捜研鑑定結果である定量値1.612ng/μLが持つ意味」であった。

検察側証人は、京都府立医科大学の池谷博教授(『科捜研のデータ「1回では外れ値かどうかは確認できず」)検察側鑑定結果では、リアルタイムPCR法での検量線の使い回しで「平均値で4~5割程度の誤差が生じる」ことが証言された。

弁護側証人は、東京大学医科学研究所の真下知士教授(『科捜研の数値「信頼性が低く『恣意的なデータ』」

2025年1月22日の最終弁論では、検察官は池谷鑑定(池谷氏の鑑定報告書)から定量値1.612ng/μLは正しく、A氏の証言の信用性を補強すると主張。一方、弁護人は池谷鑑定では1.612ng/μLが正しいとは示せておらず、DNA量と唾液の量は関係がなく、舐めたことの証明にはならないと主張した。また、両証人の証言から科捜研の検査手法は、科学的に問題が多いことを改めて指摘。

DNA定量検査の正確性に関する以外の証拠は採用しないことが決まり結審。

乳腺外科医師えん罪事件Q&A

事件についての疑問と、せん妄状態とはどのようなものか体験談が掲載されています。

 まとめ

術後にわいせつ行為をしたとして逮捕・起訴された乳腺外科医師の裁判について紹介しました。

一般人には「せん妄」状態がどのようなものか理解しがたい面がありますが、しかし、外科手術などではよく見られる状態のようです。

女性の立場から見ると、完全に記憶にあり被害に心を痛めているのは事実です。

けれど、男性医師にとっては仕事も、家庭も(実刑判決後に当時12歳の息子が自殺しています。自殺の原因は不明)失ったものは大きいです。

医療の現場では、この事件は大きな反響を生んでいるそうです。冤罪ならば、このような事例で起訴・逮捕され有罪になった場合、医療行為に大きな支障をきたすことになります。

2016年に事件が起こってから、今日まで約9年。女性にとっても、男性医師にとっても悲劇の歳月ですね。

検察側が再上告する可能性もあり、無罪が確定したわけではありません。裁判の行方を見守りたいと思います。

スポンサーリンク
スポンサーリンク
スポンサーリンク
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次