アメリカでいま、大きな注目を集めているのが「ゲリマンダー」という選挙区の区割り問題です。
これは、特定の政党に有利になるように選挙区を引き直す仕組みのことで、次の中間選挙を前にトランプ大統領がテキサス州での実施を強く働き掛けています。
その影響は州単位にとどまらず、アメリカ全体の政治バランスや民主主義そのものを揺るがすものだと専門家は警告しています。
本記事では、ゲリマンダーの仕組みやトランプ氏の戦略、そして国民の反応まで、わかりやすく解説していきます。
はじめに
米国で再燃する「ゲリマンダー」報道の背景
いまアメリカでは「ゲリマンダー」という言葉が連日ニュースをにぎわせています。
これは選挙区の区割りを特定の政党に有利になるように操作する仕組みのことで、まさに“選挙の裏ワザ”とも言えるものです。
きっかけは、トランプ大統領が来年の中間選挙に向けて、共和党が強いテキサス州で区割りの見直しを求めたことでした。
この動きはすぐに波紋を呼び、民主党も対抗策を探る状況に発展しています。単なるテクニカルな戦略に見えますが、実際には「誰の声が政治に届くのか」を左右する、大きな問題をはらんでいるのです。
民主主義を揺るがす制度としての注目
ゲリマンダーが問題視される理由は、単に「勝ちやすくなる」ことにとどまりません。
例えば、接戦区だった地域を線引き一つでまとめたり外したりするだけで、一夜にして圧倒的に共和党寄り、あるいは民主党寄りの選挙区に変わってしまうのです。
こうして選ばれた議員は、反対派や中立層の意見に耳を傾ける必要がなくなり、結果として議会はますます党派対立が激しくなります。
専門家は「民主主義の信頼をむしばむ」と警告し、世論調査でも多くの有権者が懸念を示しています。つまりゲリマンダーは、選挙の形をした「民意なき制度」として、いま改めて注目を浴びているのです。
1.ゲリマンダーとは何か
恣意的な区割り変更の仕組み
ゲリマンダーとは、選挙区の線引きを「どの政党に有利になるか」を意識して行う手法のことです。
たとえば、ある地域に共和党支持者が多いとわかれば、その地域を1つの選挙区にまとめて「安全な地盤」を作ります。
逆に、民主党支持者が固まる地域を複数の選挙区に細かく分ければ、票が散らばり、民主党の議員が当選しにくくなるのです。
日本でいうと、市町村を勝手に分割したり合併したりして、特定の政党に有利な議席を生み出すようなイメージに近いでしょう。
線の引き方ひとつで結果が大きく変わる――これが「恣意的な区割り変更」の恐ろしさです。
トライフェクタ州での実施条件
ただし、ゲリマンダーを実際に実行するには条件があります。
アメリカの多くの州では、選挙区の区割りは州議会が決め、知事が承認します。
つまり、上下両院と知事の座を同じ政党が押さえている「トライフェクタ」の州でないと、思い通りの線引きはできません。
たとえばテキサス州は共和党が強く、議会も知事も共和党が握っているため、ゲリマンダーが実行に移されやすい典型的な州です。
一方で、カリフォルニア州のように独立した委員会が区割りを行う仕組みを採用している州では、党の思惑だけで線を引き直すことはできません。制度の違いが、州ごとの政治状況に直結しているのです。
過去の選挙での具体的な影響例
実際にゲリマンダーが行われると、選挙の結果は大きく変わります。
過去には、接戦が続いていた地域が区割り変更によって一気に共和党の“牙城”となった事例や、逆に民主党が強固な地盤を築いたケースもありました。
極端な例では、全体の得票数では民主党が多かったのに、議席数では共和党が上回るという結果が生まれたこともあります。
こうした逆転現象は、有権者に「自分の一票が無駄になった」と感じさせ、政治不信を深める要因となっています。つまり、ゲリマンダーは単なる選挙戦略にとどまらず、民主主義そのものの根幹を揺るがす力を持っているのです。
🖊 ゲリマンダーとは?
ゲリマンダーとは、特定の政党や政治家に有利になるように選挙区を恣意的(しいてき)に区切り直すことを指します。
選挙の票の数をいじるのではなく、「どの地域をひとつの選挙区にまとめるか」を操作することで結果をコントロールしようとする仕組みです。
名前の由来
- 1812年、アメリカ・マサチューセッツ州知事のエルブリッジ・ゲリー(Elbridge Gerry)が、自党に有利なように区割りを変えました。
- その区割り地図の形が「サラマンダー(トカゲ)」に似ていたことから、
Gerry + Salamander = Gerrymander(ゲリマンダー) と呼ばれるようになりました。
仕組み(シンプルな例)
- ある地域に「A党が60%、B党が40%」の支持者が住んでいるとします。
- 本来ならA党が優勢ですが、区割りを工夫すれば…
- A党が確実に勝てる選挙区を少なくする
- B党の支持者を複数の選挙区に分散させて票を薄める
👉 こうして、本来より多くの議席を獲得できてしまうのです。
問題点
- 民意が正しく反映されにくくなる
- 議員が「自分の支持層」しか見なくなり、政治の分断が進む
- 有権者が「投票しても意味がない」と感じ、政治離れが進む
最近の動き
- 2025年、中間選挙を控えたアメリカで、トランプ大統領がテキサス州にゲリマンダーを要請。
- 民主党も対抗策を模索し、カリフォルニア州では公平な区割りを守る姿勢を強調。
- 世論調査では「ゲリマンダーは民主主義を壊す」と考える国民が多数。
👉 要するに、ゲリマンダーは「線の引き方ひとつで選挙結果が変わる」ため、民主主義の根本を揺るがす問題なんです。
🖼 ゲリマンダーの仕組みを図解風に解説

例:ある地域に100人の有権者がいる場合
- A党支持:60人
- B党支持:40人
本来ならA党が優勢です。
でも「区割りの線」をどう引くかで結果は大きく変わります。
✅ 公平に区割りした場合
選挙区1:A党 30人 / B党 20人 → A党勝利
選挙区2:A党 30人 / B党 20人 → A党勝利
合計:A党2議席、B党0議席
👉 支持率60% vs 40%がそのまま議席に反映されます。
⚠️ ゲリマンダーを使った場合
B党が有利になるように区割りを操作すると…
選挙区1:A党 25人 / B党 25人 → 五分五分(B党勝つ可能性も)
選挙区2:A党 35人 / B党 15人 → A党勝利
👉 合計では「A党1議席、B党1議席」になり、
本来60% vs 40%の支持率なのに「五分の議席数」に見えてしまいます!
逆にA党が操作すれば「2-0」で圧勝になるケースも作り出せます。
- ゲリマンダーは 票の数をいじらなくても「勝てる区割り」を作れる ところが問題。
- 民意を正しく反映せず、議会のバランスを歪めてしまいます。
2.テキサス州とトランプ氏の動き
トランプ氏が共和党に働き掛けた背景
トランプ大統領がテキサス州にゲリマンダーを強く求めたのは、来年の中間選挙で確実に勝利を収めるためでした。
特にテキサス州は共和党の保守派が強固な基盤を持ち、選挙区割りを変える余地も多い州として知られています。
大統領自身にとっても、議会での味方を増やすことは再選戦略の一環であり、彼は「区割りを変えることが勝敗を決める」と考えているのです。
実際、共和党議員たちは「選挙での有利さを確保する最も現実的な手段」としてゲリマンダーを受け入れる姿勢を見せています。
テキサス州下院議員数増加の可能性
現在、テキサス州選出の共和党下院議員は25人ですが、区割りの変更が実現すれば一気に30人に増える可能性があると指摘されています。
わずか5議席の増加でも、全米規模で見れば大きな意味を持ちます。
下院の多数派争いは常に数議席の差で決まることが多く、この増加がそのまま共和党の優位につながるのです。
つまり、テキサス州の区割り変更は「地方の問題」にとどまらず、アメリカ全体の政治バランスを左右するほどのインパクトを持っています。
カリフォルニア州知事による対抗策
こうした動きに対し、民主党の拠点であるカリフォルニア州はすぐに反応しました。
州知事は「共和党だけが有利になるような区割り変更には黙っていられない」として、独自の選挙制度改革や選挙区の公平性を確保する仕組みを強調しました。
カリフォルニア州では独立した委員会が区割りを担っており、政党の直接的な操作ができない制度を守る姿勢を打ち出しています。
これは「共和党の動きをけん制し、国全体での公平性を示す」政治的アピールでもあります。
こうして、テキサス州とカリフォルニア州の対立は、単なる州レベルの争いではなく、全米の民主主義をめぐる象徴的な戦いとして注目されているのです。
3.民主主義への影響と社会の反応
議会の党派色強化と民意の反映不足
ゲリマンダーの大きな問題は、選挙に勝ちやすくなるだけでなく、議会そのものの姿をゆがめてしまう点です。
たとえば、区割りで有利になった議員は「自分の支持層さえ守れば当選できる」と考えるため、他党の支持者や中立的な有権者の声に耳を傾けなくなります。
その結果、議会では妥協や協力が難しくなり、党派色がどんどん強まります。
実際、アメリカの議会では「超党派で合意する」ことがますます少なくなり、法案審議が停滞する場面が増えていると指摘されています。これは、まさにゲリマンダーが政治を分断させる典型的な悪循環です。
有権者・専門家の否定的な声
こうした状況に対し、専門家や市民からは批判の声が高まっています。
選挙区割りをいじることで「民意が反映されない選挙」が生まれ、結果として有権者の政治参加意欲を削ぐことにつながるからです。
ある大学教授は「ゲリマンダーは政治家を守る制度であって、有権者を守る制度ではない」と警告しています。
また、一般市民からも「投票しても結果が決まっているなら意味がない」「選挙がゲームのようになってしまった」という不満の声が出ています。
共和党だけでなく民主党も過去にゲリマンダーを行ったことがあるため、「両党ともに自分たちの利益しか考えていない」と冷めた見方をする人も少なくありません。
世論調査から見る国民の危機感
実際に世論調査を見ても、多くのアメリカ人がゲリマンダーを「民主主義を脅かす深刻な問題」と考えています。
2025年のYouGovの調査では、政党を問わず過半数の国民が「ゲリマンダーは民主主義を弱体化させる」と回答しました。
特に若い世代ほど危機感を強く持っており、「自分たちの未来が政党の思惑によって左右されるのは不公平だ」との声も多く上がっています。
このように、国民の多くが制度そのものに疑問を抱いており、アメリカ社会の分断をさらに広げる火種になっているのです。
まとめ
ゲリマンダーは単なる選挙テクニックではなく、民主主義の根幹を揺るがす制度です。
区割りを変えるだけで、接戦だった地域が一夜にして特定政党の牙城に変わり、民意が反映されにくくなる現実があります。
トランプ大統領がテキサス州で働きかけた動きや、カリフォルニア州知事の対抗策は、その象徴的な事例と言えるでしょう。
専門家や市民からは「選挙が形骸化している」「政治家の都合で民意が無視されている」という批判が強まり、世論調査でも国民の過半数が深刻な問題と捉えています。
党派の勝敗を超えた視点で「公平な選挙制度」を守ることが、今のアメリカにとって喫緊の課題となっているのです。
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