2025年、中国で公開された映画《南京照相馆》は、南京大虐殺を題材にした歴史映画として大ヒットを記録しました。
一方で、同じく日本軍による戦時中の加害行為を描いた映画『731』は、公開直後こそ大きな話題を集めたものの、口コミが崩壊し、観客から酷評が相次ぎました。
本記事では、この二つの映画を比較し、なぜ評価が分かれたのかを掘り下げていきます。
1.《南京照相馆》とは?大ヒットの理由

《南京照相馆》は、南京大虐殺の記録写真を題材に、市民たちが「歴史の証言を残す」ために命を懸ける姿を描いた作品です。
公開からわずか17日で興行収入は21.9億元(約490億円)を突破し、豆瓣では11万人以上がレビューを投稿、平均スコアは8.6点という高評価を獲得しました。
観客からは「暴力や残虐を過度に描かず、写真を通じて伝えるという手法が心に響いた」「過去を忘れないための映画」といった声が多く寄せられ、歴史教育的な役割も果たしていると評価されています。
2.映画「731」の酷評ポイント

映画『731』は、中国東北部にあった旧日本軍731部隊の人体実験や細菌戦を題材にしています。
公開初日には3億4000万元(約70億円)という大ヒットスタートを切りましたが、すぐに観客の反応は急変しました。
SNSや口コミサイト豆瓣では「犠牲者への敬意がまったくない」「爆笑もの」「荒唐無稽すぎて歴史を軽んじている」といった批判が噴出。特に、収容所でおいらん道中が行われたり、ふんどし姿の人物が登場するなど、史実とかけ離れた描写が不快感を与えたとされています。
結果として、観客動員は急減し、1回の上映あたり観客数が3人程度にまで落ち込む劇場も出るほどでした。

3.観客口コミの比較:南京 vs 731
両作品を比較すると、観客の口コミに明確な差が見られます。
- 《南京照相馆》への評価
「心に響いた」「歴史を語り継ぐ責任を感じた」「涙が止まらなかった」など、真剣に向き合った観客の声が目立ちました。 - 『731』への評価
「歴史の悲劇を茶化している」「愛国心を商売にしているだけ」といった怒りのコメントが中心。酷評が広がると同時に、観客離れが加速しました。
同じ「抗日」や「歴史」を扱っても、描き方や演出の違いが口コミに直結したことが分かります。
4.演出・表現手法の違い
《南京照相馆》は、残虐シーンを過度に映さず、写真という象徴を通じて観客に想像させる余白を残しました。これが「芸術性」と「敬意」の両立につながったといえます。
対して『731』は、残虐シーンを強調しつつも、荒唐無稽な娯楽的演出を交えるというアンバランスな構成。結果として「シリアスにも娯楽にもなりきれない」という中途半端さが批判の的となりました。
5.プロパガンダ性と政治的背景の比較

- 《南京照相馆》
愛国的要素はあるものの、物語性を重視したため、観客の共感を得やすい仕上がりに。国際映画祭やアカデミー賞国際長編映画部門への出品も意識しており、海外での受容も狙っています。 - 『731』
習近平政権の「抗日戦勝80周年」事業の一環として公開され、黒竜江省などの共産党委員会宣伝部が深く関与。政治的メッセージの強さが前面に出すぎ、娯楽作品としても歴史作品としても観客の支持を得られませんでした。
6.国際社会からの視線
《南京照相馆》は、歴史映画でありながら芸術性を備えた作品として、海外映画祭での評価も期待されています。国際的な上映によって、中国映画の「歴史を語る力」を示そうという意図がうかがえます。
一方『731』は、その誇張された演出や史実無視の批判から、国際市場での評価は難しいと見られています。国内限定の「プロパガンダ映画」という烙印が押される可能性が高いでしょう。
まとめ
南京大虐殺を題材にした《南京照相馆》と、731部隊を題材にした映画『731』。
同じように歴史を描きながらも、評価はまったく異なる結果となりました。
《南京照相馆》は「歴史を証言する映画」として観客の共感を得て大ヒット。
『731』は「荒唐無稽で犠牲者への敬意がない」と酷評され、観客からそっぽを向かれました。
この比較から見えるのは、歴史映画の成否は「史実への敬意」と「表現のバランス」にかかっているということです。観客が求めているのは単なる愛国心の喚起ではなく、歴史の痛みに真摯に向き合う姿勢なのだといえるでしょう。
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