1.吉行和子さんのプロフィール
基本情報と所属事務所
吉行和子さんは1935年8月9日、東京都に生まれました。本名も同じく吉行和子。
2025年9月2日に肺炎のため90歳で亡くなるまで、女優として、そしてエッセイストとして第一線で活躍し続けました。
晩年まで所属していたのは「テアトル・ド・ポッシュ」で、同事務所を通じて数々の舞台や映像作品に出演。
亡くなる直前まで新作映画の公開を控えていたことからも、「生涯現役」の言葉がふさわしい人物でした。
文学・芸術一家に生まれて

吉行さんの家族は、日本の文化を語る上で欠かせない存在です。
父は作家の吉行エイスケ、母はNHK朝ドラ『あぐり』のモデルにもなった美容師の吉行あぐり。
兄は直木賞作家の吉行淳之介、妹は芥川賞を受賞した詩人の吉行理恵と、まさに文学・芸術一家でした。
幼い頃から文学作品や芸術に囲まれた環境は、彼女の感性を育み、演技やエッセイに自然な奥行きを与えたと言えるでしょう。
生涯現役を貫いた姿勢

吉行和子さんの人生を語る上で欠かせないのが、「最後まで舞台に立ち続けた」姿勢です。
70代や80代になってからも新しいドラマや映画に挑戦し、2026年公開予定の『あなたの息子ひき出します!』は遺作となりました。
90歳での活動は決して容易ではありませんが、彼女は「演じることは生きること」と語り続け、自らの姿で多くの人に勇気を与えました。
その姿勢は、若い世代の俳優にとっても大きな刺激となり、共演者からは「自然体で無理をしないのに存在感がある」という評価が絶えませんでした。
2.女優としての歩み
劇団民芸でのデビューと初舞台

高校卒業後に劇団民芸の研究所へ。「衣装係でもできれば」と入ったつもりが、稽古場での素直な受け答えや所作が評価され、女優として舞台に立つことに。
初期の代表的な舞台が『アンネの日記』でのアンネ役です。旅公演では体力面の不安やプレッシャーもありましたが、客席からの拍手と共演者の支えを力に変え、台詞を“言う”のではなく“生きる”演技へと意識が変わっていきます。
のちに「舞台は日常をほどいたところに本当の温度がある」と語るように、声量よりも息づかい、身振りよりも眼差しで温度を届けるのが吉行さんの持ち味でした。
60年代後半には小劇場作品にも挑戦し、固定観念に縛られない役づくりで表現の幅を大きく広げていきます。

映画・テレビでの代表作
映画では『にあんちゃん』(1959年)で注目を集め、その後も母・妻・姉といった“家庭の核”を丁寧に描く役柄で存在感を示しました。


上品な若奥様という雰囲気ですね。
たとえば『愛の亡霊』(1978年)では、静かな所作に濃い感情を滲ませる演技が評価されます。
「愛の亡霊」で大胆な濡れ場を演じて周囲を驚かせました。
その後は妖艶なイメージに

テレビでは『3年B組金八先生』での保護者役や、『ふぞろいの林檎たち』での母親像が印象的。厳しさの裏にある温かさ、ユーモアの中にある良識を、台詞の“間”と柔らかな口調で表現しました。

晩年も『やすらぎの郷』など話題作に出演し、年齢を重ねたからこそ醸し出せる余白と品格で、若い俳優と対等に渡り合う姿が視聴者の共感を集めました。

さらに晩年まで新作映画の撮影に臨み、スクリーンでもテレビでも“今この瞬間の吉行和子”を更新し続けた点が、長いキャリアを語る上での最大の特徴と言えるでしょう。
吉行和子さんのプロフィール
項目 | 内容 |
---|---|
名前 | 吉行 和子(よしゆき かずこ) |
本名 | 吉行 和子 |
生年月日 | 1935年8月9日 |
出身地 | 東京都 |
逝去日 | 2025年9月2日(享年90歳/肺炎のため) |
職業 | 女優・エッセイスト |
所属事務所 | テアトル・ド・ポッシュ |
家族 | 父:小説家・吉行エイスケ 母:美容師・吉行あぐり(NHK朝ドラ『あぐり』モデル) 兄:直木賞作家・吉行淳之介 妹:芥川賞詩人・吉行理恵 |
代表作(映画) | 『にあんちゃん』(1959年) 『愛の亡霊』(1978年/大島渚監督)主演 『福』(2003年) 『あなたの息子ひき出します!』(2026年公開予定・遺作) |
代表作(ドラマ) | 『3年B組金八先生』 『ふぞろいの林檎たち』 『華麗なる一族』 『やすらぎの郷』(倉本聰脚本) |
著書 | 『こんなとき女はどうするの』 『年をとるのはこわいこと?』 『ひとりの午後に』 |
特徴・人柄 | 気取らないおしゃれと自然体の生き方 晩年まで「生涯現役」を貫いた女優 共演者・ファンから「品とユーモアの人」として親しまれる |
吉行和子さんの代表作とその魅力
映画代表作
『にあんちゃん』(1959年)

吉行和子さんが映画界で注目を集めるきっかけとなった作品。戦後の混乱期を生きる姉弟の物語で、彼女は姉の役を演じました。
日常の中で必死に生きる姿をリアルに表現し、毎日映画コンクール助演女優賞を受賞。初期から自然体の演技が光った一作です。
『愛の亡霊』(1978年/大島渚監督)

国際的にも高く評価された大島渚監督の作品で主演を務めました。愛と欲望に翻弄される女性を体当たりで演じ、抑えた表情の奥に複雑な感情を滲ませる演技が強い印象を残しました。
とくに作中では、当時としては衝撃的な大胆な濡れ場やラブシーンにも挑戦し、世間を驚かせました。「清楚で上品」と言われてきた吉行さんがここまで表現するのか、という意外性が話題になり、女優としての覚悟と幅広さを世間に示したのです。
海外の映画祭でも高い評価を受け、日本映画の可能性を広げる一作となりました。
🖋 特別コラム:『愛の亡霊』が示した女優としての覚悟
吉行さん自身は「役に取り組む以上、恥じらうよりも真剣さが必要」と語っていたと伝わります。家庭的な役柄が多かった彼女が、タブーに挑む作品で一気にイメージを覆したことは、女優としての大きな転機でした。この挑戦があったからこそ、晩年まで“生涯現役”を貫いた姿勢につながったとも言えるでしょう。
『福』(2003年)
高齢者施設を舞台にした作品で、人生の晩年を生きる人々の心の交流を描きました。年齢を重ねた吉行さんだからこそ出せる“やわらかさ”と“深み”が感じられ、観客から「自分の親を思い出した」と共感を集めました。
『あなたの息子ひき出します!』(2026年公開予定/遺作)
最後の出演作となる予定の映画。公開前から「遺作」として注目を集めています。詳細な役柄はまだ多く語られていませんが、晩年までスクリーンに立ち続けた吉行さんの姿を目に焼きつける貴重な作品になるでしょう。いる」との声が多く寄せられました。
テレビドラマ代表作
『3年B組金八先生』

教育現場を描いた国民的学園ドラマに、保護者役として出演しました。
吉行さんが演じたのは、生徒の家庭を支える母親役。厳しさの裏に深い愛情がにじみ出る演技で、「本当にあの時代の母親を見ているようだ」と共感の声が多数寄せられました。
特に、子どもの将来を思って悩み、時には教師に意見をぶつけるシーンでは、「親としての葛藤」が丁寧に表現されており、家庭の現実感を作品に加える大きな役割を果たしました。
共演者の武田鉄矢さんも後に「自然体の存在感で物語に深みを与えてくれた」と語っています。
『ふぞろいの林檎たち』

1980年代を代表する青春群像ドラマで、吉行さんは登場人物の母親世代を演じました。
若者たちが恋愛や就職に悩み成長していく姿を支える存在として、優しさだけでなく時に厳しい視線を投げかける役どころ。
特に、息子の選択を心配しながらも最終的には見守る姿は「自分の母親と重なった」という視聴者が多く、家庭ドラマとしてのリアリティを高めました。
若者中心のドラマでありながら、吉行さんの落ち着いた演技が大人の視点を加え、物語をより厚みのあるものにしています。
『華麗なる一族』
山崎豊子の小説を原作にした重厚な人間ドラマ。複雑な家族関係の中で、静かに背景を支える役柄を演じました。派手な台詞回しは少なくとも、所作や表情で「一族の歴史の重み」を体現し、作品に奥行きを与えました。
『やすらぎの郷』(倉本聰脚本)
芸能界の大御所が多数出演したシニア向けドラマの話題作。吉行さんは高齢の女性役として出演し、晩年まで自然体で存在感を放ちました。視聴者からは「本当に“やすらぎ”を体現しているようだ」との感想も多く寄せられ、年齢を重ねてもなお輝き続ける姿を印象づけました。
3.エッセイストと人柄
著作と共感を呼ぶエッセイ
吉行和子さんのエッセイは、背伸びをしない語り口が魅力です。
たとえば、買い物帰りのエコバッグが重くて「よし、今日はタクシーに頼ろう」と小さなご褒美を用意する話、電車で席を譲られて一瞬戸惑いながらも「ありがとう」をきちんと言う話――どれも特別な出来事ではありませんが、読む人の毎日にスッと溶け込みます。
『こんなとき女はどうするの』『年をとるのはこわいこと?』『ひとりの午後に』といった題名からもわかるように、テーマは“暮らし”と“気持ちの整え方”。
歳を重ねる不安や寂しさに、ユーモアと観察眼でそっと明かりを灯す文章は、同世代には励ましに、若い世代には“肩の力を抜くコツ”として響きました。
舞台や撮影現場で出会った人の温かさ、小さな失敗を笑いに変える姿勢など、女優の目で見た日常の景色が、読者の「あるある」と自然につながっていくのです。
気取らないおしゃれと自然体
吉行さんのファッションは、流行に流されない“凛としたやわらかさ”。白いシャツにパールをひと粒、ワンピースに薄手のカーディガン――組み合わせはシンプルでも、立ち姿や所作の丁寧さで不思議と華やぎます。
舞台稽古の合間に上履きのまま台本を抱えて笑うスナップ、ドラマの衣装合わせで「ここを一折りすると、体が楽ね」とスタイリストに柔らかく伝える姿など、現場のエピソードには“無理をしない工夫”がいつもありました。
SNSでも「背筋が伸びているのに威張らない」「色づかいが上品」といった感想が多く、年齢を理由に服を諦めるのではなく、暮らしに合わせて“似合う”を更新していく姿勢が共感を呼びました。
飾り立てず、でも手を抜かない。その自然体こそが、画面越しにもページ越しにも伝わる“吉行和子らしさ”でした。
SNSや共演者が語る吉行和子さんへの思い出
ファンの声
SNSでは「いつまでも可愛いチャーミングな女性」という言葉や、「独特のぺちゃぺちゃした色っぽい話し方が忘れられない」といったコメントが多く寄せられました。若い頃から上品さと親しみやすさを併せ持っていた印象が、世代を超えて長く愛されていたことが伝わります。
武田鉄矢さんの追悼コメント
ドラマ『3年B組金八先生』で共演した武田鉄矢さんは、テレビ番組で次のように語っています。
「若い頃に本当にかわいがってもらった先輩女優さんです。熱演すると『上手ね~』と優しくほめてくださって…その言葉がどれだけ励みになったか分かりません。」
このエピソードからも、吉行さんが後輩俳優たちに惜しみない愛情を注いでいたことが分かります。
共演者・直江喜一さん(加藤優役)の言葉
同じく『金八先生』で共演した直江喜一さんも、X(旧Twitter)で追悼のメッセージを投稿しました。世代を超えた共演者の記憶に残る“温かな人柄”を象徴する言葉でした。
全体のトーン
- ファンからは「永遠のアイドル」「自然体で品のある女優」として惜しむ声。
- 共演者からは「かわいがってもらった」「優しく見守ってくれた」といった感謝の声。
- SNS全体を通じて、温かく、ほっこりするような追悼の言葉が中心となっていました。
吉行和子さんの存在は、画面の中だけでなく、周囲の人々の心にも深い影響を与え続けていたことがうかがえます。
まとめ
吉行和子さんは、昭和から令和にかけて90年の人生を女優・エッセイストとして駆け抜けました。劇団民芸での初舞台から始まり、映画『にあんちゃん』で注目を浴び、『愛の亡霊』ではイメージを覆す挑戦を果たしました。さらに『3年B組金八先生』『ふぞろいの林檎たち』といった国民的ドラマでは、母親像や大人のまなざしをリアルに演じ、幅広い世代に親しまれました。
エッセイでは、日常の小さな出来事をユーモアで包み込み、年齢を重ねることを前向きにとらえるメッセージを残しました。その文章は同世代の励ましとなり、若い世代には「肩の力を抜いて生きるヒント」として響きました。
SNSや共演者から寄せられた追悼コメントは「可愛らしい」「自然体で品のある人」「優しく見守ってくれた先輩」という言葉ばかり。舞台やスクリーンの中だけでなく、人と人との関わりの中でも温かさを放ち続けたことが伝わってきます。
白いシャツや一粒パールに象徴される飾らないおしゃれ、生涯現役を貫いた強さとユーモア。吉行和子さんの姿は、これからも作品やエッセイを通して、多くの人の心に生き続けるでしょう。
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