離婚後に子どもを育てる親にとって、養育費は生活を支える大切なお金です。
ところが現実には「約束したのに支払われない」「そもそも取り決めをしていない」というケースが多く、ひとり親家庭の困窮につながっています。
こうした問題を解決するため、法務省は新たに「法定養育費」という仕組みを導入し、離婚時の取り決めがなくても最低限の額を請求できる制度を検討しています。
その目安となる金額が「月2万円」。
2026年の施行を目指し議論が進むなかで、賛否両論の声が上がっています。この記事では、制度の概要や課題、国民の反応をわかりやすくまとめていきます。
はじめに
法定養育費の検討が始まった背景
離婚後の子どもの生活を守るために欠かせない「養育費」ですが、実際には支払われないケースが少なくありません。
法務省はこの問題に対応するため、離婚時に取り決めがなくても一定額を請求できる「法定養育費」を新設する方向で動き始めました。
その目安となる金額が月2万円です。これは、「取り決めがなければゼロ」という現状を改善し、最低限の生活費を確保する狙いがあります。
2026年5月の施行を目指して議論が進んでおり、今後の制度設計に注目が集まっています。
養育費不払い問題の現状と課題
厚生労働省の調査によると、母子世帯のうち養育費の取り決めをしているのは半数以下の約47%で、実際に受け取っている家庭はわずか28%にとどまっています。
例えば、母親が一人で子どもを育てながらアルバイトを掛け持ちしても、養育費が支払われなければ生活は厳しいままです。
逆に父子家庭でも同様に、子どもを育てるための出費が重くのしかかります。
このように「払う側の経済的余裕がない」「取り決め自体をしていない」といった複雑な背景があり、養育費不払いはひとり親家庭の困窮につながる深刻な社会課題となっています。
1.法定養育費とは何か

制度の概要と導入の目的
法定養育費とは、離婚したときに養育費の取り決めがなくても、法律によって最低限の額を請求できる仕組みのことです。
これまでの制度では「取り決めをしなければゼロ」になってしまい、子どもに必要なお金が確保されないケースが多くありました。
導入の目的は、子どもの生活を安定させ、ひとり親家庭が極端に困窮する状況を減らすことにあります。
例えば、離婚後に相手が支払いを拒否した場合でも、法定養育費があれば一定額は必ず受け取れるようになるのです。私自身も、子どもの生活を守る仕組みが国レベルで整えられることはとても大切だと感じます。
月額2万円案の根拠と想定ケース
現在、法務省が示しているのは「月額2万円」という案です。この金額は一律の目安というよりも、一定の条件に基づいて想定された数値です。
例えば、監護親(子どもと一緒に暮らしている親)の年収が1,000万円、非監護親の年収が300万円で、14歳以下の子どもが1人いる場合、最低限でも2万円程度の養育費は発生するという計算に基づいています。
ただし、非監護親に別の子どもがいる場合や、生活費が特にかかる状況では額が変わる可能性があります。
つまり「2万円=固定額」ではなく、最低ラインとしての意味合いが強いのです。実際に子どもを育てている立場からすると、2万円で足りるのか疑問もありますが、ゼロよりははるかにましだと感じます。
改正民法と施行時期のスケジュール
この法定養育費を実現するためには、改正民法が必要です。
すでに制度新設を盛り込んだ改正案が用意されており、2026年5月までの施行を目標に準備が進められています。
今後は国会での議論や与党の見解、さらに国民からの意見募集(パブリックコメント)を経て、具体的な制度設計が固まる見通しです。
導入までには時間がかかりますが、その間も養育費不払いによって困っている家庭は数多く存在するため、早期の実現を求める声も強まっています。私も子どもを持つ親として、この制度が本当に役立つものになることを願っています。
2.養育費をめぐる現状と課題

母子世帯の養育費受給率の低さ
養育費の取り決めや支払いがどれほど実際に行われているかを見てみると、非常に低い水準にとどまっています。
厚生労働省の調査によれば、母子世帯のうち養育費を取り決めているのは47%程度で、実際に受け取っているのはわずか28%しかありません。
つまり、多くの家庭が「取り決めをしても支払われない」「そもそも取り決め自体がない」という状況に直面しています。
たとえば、母親がフルタイムで働きながらも子どもを育てているケースで、養育費が入ってこないと、学用品や給食費すら負担が重くのしかかるのです。子どもに「ごめんね、今日はこれしか買えない」と言わざるを得ない親の気持ちを思うと胸が痛みます。
不払いがもたらすひとり親家庭の困窮
養育費の不払いは、生活を直撃する深刻な問題です。
毎月の養育費がなければ、子どもの食費や衣類、学習塾代などを賄うのが難しくなります。
例えば、月2万円でもあれば、学校の給食費に加えて部活動の費用や習い事の一部をまかなうことができますが、それがゼロになると親が借金や生活保護に頼らざるを得ない場合もあります。
特に母子家庭では、収入が限られているため、養育費の有無が子どもの生活水準を大きく左右してしまうのです。私も知人の話を聞いたことがありますが、養育費が入らないために子どもの進学を諦めざるを得なかったという現実に胸が締め付けられました。
父子家庭への考慮とバランスの課題
養育費というと母子家庭が注目されがちですが、父子家庭も存在します。
父親が一人で子どもを育てる場合も、仕事と育児の両立は容易ではありません。たとえば、非正規の仕事を掛け持ちしながら保育園に子どもを迎えに行く父親にとっても、養育費は重要な支えになります。
しかし、現行の議論では母子家庭中心の視点が強く、父子家庭への配慮が十分ではないと感じる人も少なくありません。
今後は、母子・父子の双方が安心して子育てできるよう、バランスを考えた制度設計が求められています。制度の形だけでなく、現実に即した支援のあり方が必要だと強く思います。
3.制度に対する反応と今後の展望
国民や専門家の主な意見(ヤフコメ等)
法定養育費の導入については、インターネット上でもさまざまな意見が交わされています。
たとえば「国が一括して養育費を管理し、強制的に回収する仕組みを作るべきだ」という声が多く見られます。
これは、個人間の約束に頼るのではなく、公的機関が関与することで確実に支払いを実現できるという考えです。
一方で、「支払いたくても経済的に厳しい父親も多い」という指摘もあり、単純に金額を決めるだけでは解決しないという現実的な課題も示されています。
こうした意見を読んでいると、制度の必要性と同時に、支払う側の生活も考えなければならないのだと気づかされます。
弁護士による法的観点からの解説
法律の専門家からは、月2万円という金額について「最低限のラインとしては妥当」という見解が示されています。
例えば、監護親の収入が1,000万円、非監護親の収入が300万円というように、収入差が大きいケースでも2万円は発生するとされています。
ただし、非監護親に他の扶養義務がある場合や、子どもが複数いる家庭など、現実には多様なケースが存在するため、金額の一律適用には慎重な姿勢が必要です。
専門家は「制度が硬直化すると逆に不公平を生む可能性がある」と警鐘を鳴らしています。確かに、画一的な制度では救えない家庭もあると私自身も感じます。
今後の議論の方向性と改善の可能性
今後は、与党の意見や国民からのパブリックコメントを踏まえて、制度の細部が固められていく予定です。
実際には「金額をどう設定するのか」「誰が徴収・管理を行うのか」といった実務的な部分が大きな課題となります。
また、養育費を支払う側の経済状況に応じた柔軟な調整や、父子家庭を含む公平性の確保も重要です。
現段階では2026年5月の施行を目指して準備が進められていますが、制度の中身がどれだけ現実に即したものになるかは、これからの議論次第だといえるでしょう。私たち一般市民も、自分ごととして意見を出していくことが大切だと思います。
海外の養育費制度の主な特徴
海外では、養育費制度において日本のような「法定養育費」の最低保証額を法律で定めている国は少なく、むしろ「両親の収入や子どもの状況に応じた算定方式」と「支払いの強制力」が重視されています。以下に主要な国や地域の状況をまとめました。
オーストラリア
- 計算方式:支払う親の収入、子どもとの宿泊数に基づく複合的な計算式で決定されます。収入や状況が変われば28日以内に再査定が可能です。
ニュージーランド
- 一定の最低支払い額(2023年時点で月91.60ドル)が設定されています。
- 支払い親の収入から控除額を差し引き、複数子どもへの割合(例:1人18%、2人24%など)に応じた額を算出→年間約6000ドル(月500ドルほど)の支払い例も。
カナダ
- 連邦および州のガイドラインに基づく計算(「テーブル額」)で、支払う親の収入と子ども人数を考慮して決定されます。
- 教育費や医療費など一部の特別費は、追加で共有負担の対象となります。
イギリス
- Child Maintenance Serviceが支払い額を算出し、不払いには厳しい処置も可能です。ただし、制度の実効性に対する批判が強く、未払いによるひとり親家庭の貧困率が高いのが現状です。
スウェーデン
- 基本的に両親間で合意形成が重視されます。双方の経済状況や子どもの必要に応じた調整が可能です。
- 支払いが滞ると、国(Försäkringskassan)が代わって支払いを行い、後に支払い義務者に請求する制度もあります。
欧州諸国や北米(一般的状況)
- ドイツやフランスでは、両親の収入や子どもの必要に応じた具体的な算定方式があり、未成年、教育を受ける子どもに対して支払いは成人後も続く場合があります。
- アメリカでは州ごとに差がありますが、収入に基づく算定や源泉徴収、パスポート剥奪などの強制措置が存在します。
開発途上国(中低所得国)の状況
- 支払い率は低く、受給できている世帯は少数派(高所得国では約40%、中低所得国では約29%)。
- 支払い額も少なく、高所得国では平均5,260米ドル、中低所得国では約3,626米ドルと報告されています。
- 登記制度や複数法制(民法・宗教法など)の混在により、支払いの公平性確保が課題となっています。
国際間の徴収強制と協力制度
- 多くの国(EU加盟国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、米国など)は、相互徴収・強制に関する協定を結んでおり、越境している場合でも支払い支援が可能です。
- ハーグ条約(2007年)は、55か国加盟し、支払い義務を他国でも強制できる法的枠組みを提供しています。
まとめとして
地域/国 | 制度の特徴 | 最低保証の有無 |
---|---|---|
日本(検討中) | 月2万円の最低保証の導入を検討中 | まだ制度化されていない |
オーストラリア/ニュージーランド | 収入・状況に応じた計算法、中NZに最低額あり | NZのみあり |
カナダ/欧州諸国 | 明確な計算方式と必要に応じた特別費の共有 | 法定最低額はない |
イギリス | 制度あり、不払いに強制措置ありだが運用が課題 | 法定最低額なし |
中低所得国 | 支払い率・金額が低く、制度不備が多い | 公的保証ほぼなし |
国際協力 | ハーグ条約などで越境支援可能 | – |
日本で検討中の「月2万円」という最低ラインは、世界的に見るとユニークであり、制度的な支払い保障の観点からは非常に先進的なアプローチとなります。
一方で、海外では収入や子どもの必要に応じた柔軟な算定や、徴収力を担保する仕組みが整備されている点も参考になります。
まとめ
法定養育費の新設は、長年解決されてこなかった養育費不払い問題に対して大きな一歩となる取り組みです。
離婚後の子どもたちが安心して生活できるようにするためには、最低限の生活費を保証する仕組みが必要であり、その第一歩が「月額2万円」という目安の設定だといえます。
ただし、家庭ごとの事情は多様であり、一律に決めてしまうと新たな不公平を生む可能性もあります。
母子家庭だけでなく父子家庭にも配慮し、支払う側の経済的負担や、国がどのように回収・管理を行うかといった具体的な仕組みづくりが重要です。
2026年の施行に向けて、制度がどのように磨かれていくのか、国民の意見を取り入れながら公平性と実効性を両立させることが求められています。
今後の議論の進展を見守りながら、子どもの生活を守るために私たち一人ひとりも関心を持ち続けることが大切です。
コメント