「救急車を呼んだのに来なかった…」もしそんなことが自分や家族に起きたら、と考えるだけで不安になりますよね。
2024年10月、静岡県掛川市で実際に起きた救急車未出動事案は、多くの住民に衝撃を与えました。
この記事では、なぜ救急車が出動しなかったのか、その背景にある119番通報の難しさ、そして私たちができる備えについてわかりやすく解説します。
はじめに
静岡県掛川市で起きた救急車未出動事案の概要
2024年10月、静岡県掛川市で50代の男性が体調不良を訴えた家族の119番通報に対し、救急車が出動しなかったという出来事がありました。
家族は「2日間ほど動けない」「足を痛がっている」と訴えたものの、指令員は詳細な容体を聞き取らず「緊急性は低い」と判断しました。
さらに「サイレンを鳴らさずに来てほしい」という要望や、搬送先の指定があったことも判断に影響したとされています。
その後5時間半が経過し、再び容体悪化の通報が入って救急搬送されましたが、すでに心肺停止状態で死亡が確認されました。
この件は、地域住民に大きな衝撃を与え、救急体制の在り方に疑問を投げかけるものとなりました。
救急要請と対応の難しさ
119番通報は、命に関わる場面で行われることが多い一方、通報者が冷静に症状を説明することは簡単ではありません。「足が動かない」「意識がもうろうとしている」といった情報が曖昧になることもあります。
受け取る側も限られた時間で状況を判断しなければならず、マニュアルに沿った対応が求められます。
しかし、実際には「緊急性が低い」と判断されたものの中に、本来であれば迅速な対応が必要なケースが紛れ込むことも少なくありません。
今回の事案のように、サイレンを鳴らさずに来てほしいという要望や搬送先の指定といった要素が、判断をさらに複雑にしました。こうした背景は、救急体制全体に潜む課題を浮き彫りにしています。
1.救急車が出動しなかった背景

通報内容と指令員の判断
最初の119番通報では、男性の母親が「2日間ほど動けず、足を痛がっている」と訴えました。
しかし、通報内容は詳細に聞き取られず、指令員は緊急性が低いと判断しました。
体調が悪化している可能性を想定せず、「介護タクシーの利用」を勧める対応にとどまりました。
この判断には、通報者が冷静に症状を説明しきれなかったことや、指令員自身の先入観が影響したと考えられます。
サイレン鳴らさず・搬送先指定の要望が与えた影響
家族からは「サイレンを鳴らさずに来てほしい」という要望や、搬送先の指定がありました。
これにより、指令員は「緊急ではない状況」と誤って受け取った可能性があります。
実際、救急車は緊急時にサイレンを鳴らすことが法的に義務付けられており、鳴らさないことは原則認められていません。
こうした要望は「近所に知られたくない」という気持ちから出ることが多いのですが、結果的に判断を鈍らせる要因となってしまいました。
5時間半後の再通報と悲劇的な結果
最初の通報から約5時間半後、再び母親から「もうほとんど動けない」という通報が入り、今度は腹痛による急病として救急搬送が決定されました。
しかしその時には、男性はすでに心肺停止状態に陥っており、病院で死亡が確認されました。
最初の時点で救急車が出動していれば助かった可能性もあり、この判断ミスが家族に深い後悔を残す結果となりました。
2.119番通報の現場で起きがちな課題

通報者が冷静に説明できない理由
緊急の場面では、多くの人が動揺してしまいます。例えば家族が倒れているのを発見したとき、正確に症状を言葉で伝えるのは簡単ではありません。
「息をしていないように見える」「顔色が悪い」といった断片的な情報しか出てこないこともあります。
特に家族や知人が苦しんでいる様子を目の前で見ると、冷静な判断や言葉選びは難しくなり、受信側が欲しい具体的な情報(意識の有無、呼吸の状態、けがの有無など)がうまく伝わらないケースが多く見られます。
受信側の誘導スキルと判断の難しさ
通報を受ける側の指令員も、限られた時間で正確に状況を把握しなければなりません。
短時間で質問を繰り返しながら必要な情報を整理し、緊急性を判断する必要があります。
しかし今回の事例のように、通報者の言葉が曖昧であったり、サイレンを鳴らさないよう求められたりすると、状況判断に迷いが生じます。
通報内容を聞き流すのではなく、適切な質問で症状を引き出す誘導スキルが求められますが、それでも一瞬の判断ミスが重大な結果を招きかねません。
同様の経験談から見える課題
過去にも似たような経験をした人の声があります。
例えば、焚き火の事故でやけどを負った人を通報した際に「それは本当に救急車が必要なのか」と疑うような対応をされた例や、交通事故で倒れている人を助けている最中に救急要請したところ、なかなか救急車が手配されず、強い口調で再度要請してようやく手配されたという事例です。
こうした経験談は、通報者の説明不足だけでなく、受信側の先入観や判断の難しさも関係していることを示しています。緊急時の対応は双方の連携が不可欠であり、その難しさがこの事案からも浮き彫りになっています。
3.救急体制と今後の改善の方向性
先入観を排した聴取と判断の重要性
今回の事案で浮き彫りになったのは、指令員の「緊急性は低い」という先入観です。
通報を受ける際に、声の調子や通報者の言葉尻だけで判断してしまうと、本来救急搬送が必要なケースを見逃す危険があります。
例えば「2日間動けない」と聞いても、それが単なる疲労なのか重篤な病気なのかは、詳しい質問をしなければ分かりません。
通報者の表現が不十分でも、状況を具体的に掘り下げる質問力が重要です。「呼吸はできていますか」「痛みはどこにありますか」といった基本的な質問を丁寧に繰り返すことで、見過ごしを防げます。
通報者・指令員双方に求められる工夫
通報者側には「恥ずかしいからサイレンを鳴らさないで」「病院を指定したい」といった要望を伝える傾向がありますが、こうした要望は誤った判断につながる危険があります。
命に関わる状況であれば、サイレンを鳴らして迅速に到着することが最優先であることを理解する必要があります。
一方で指令員は、そうした要望に左右されず、まずは患者の安全を最優先にする姿勢が求められます。
また、通報者が慌てて状況を正確に伝えられない場合もあるため、指令員には落ち着いた声かけとわかりやすい質問が不可欠です。
例えば「息をしていないならすぐに心肺蘇生を始めましょう」と具体的な指示を出しつつ、「場所の目印は何ですか」と聞くなど、手順を一歩ずつ進めることで連携がスムーズになります。
適正利用啓発と仕組み改善への期待
近年は軽症でも救急車を呼ぶケースが増えており、救急車の適正利用が課題になっています。
今回のような判断ミスを防ぐには、通報者が「これは救急車を呼ぶべきか」を事前に相談できる電話窓口の周知や、症状をチェックできるアプリの活用も有効です。
また、指令員の研修を充実させ、先入観を持たない対応を徹底する仕組みづくりも重要です。
さらに、通報者への啓発活動として「サイレンを鳴らすことは命を守るために必要」という理解を広めることも欠かせません。今回の出来事をきっかけに、誰もが安心して救急要請できる環境づくりが期待されます。
まとめ
今回取り上げた事例は、救急車が出動しなかったことで命が失われてしまった、極めて痛ましい出来事でした。
指令員の先入観による判断ミスや、通報者の「サイレンを鳴らさないでほしい」という要望が重なり、救急搬送の決定が遅れたことが悲劇につながりました。
この出来事は、救急体制に潜む課題を私たちに突きつけています。通報する側は、恥ずかしさや迷いよりも命を優先して要請する勇気が必要です。
そして指令員には、どんな通報であっても丁寧に聴き取り、緊急性を的確に判断するスキルと心構えが求められます。
また、救急車の適正利用についての啓発や、事前相談が可能な仕組みづくり、通報者・指令員双方の教育やサポート体制の強化も欠かせません。
今回の教訓を活かし、誰もが安心して119番に頼れる社会を目指していくことが大切です。
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