2024年5月、伊東市長選で現職を破って初当選を果たした田久保眞紀市長。
「伊東のジャンヌ・ダルク」とも呼ばれたその快進撃の裏で、就任からわずか1か月で浮上したのが“学歴詐称”疑惑でした。
市の広報誌には「東洋大学法学部卒業」と記載されていたものの、匿名文書や大学の回答によって「除籍」が判明。市議会も百条委員会の設置を検討するなど、事態は思わぬ方向へと進んでいます。
この記事では、一般市民の視点から、田久保市長をめぐる一連の騒動と、私たち市民が感じていることを丁寧に追いかけてみました。
はじめに

伊東市の市長選で注目を集めた田久保眞紀氏に学歴詐称疑惑が浮上
2024年5月に行われた伊東市の市長選で、無所属新人として初当選を果たした田久保眞紀市長。女性候補として、市政への変革を訴え“伊東のジャンヌ・ダルク”とも称されました。ところが、その注目の背景とは裏腹に、就任からわずか1か月ほどで「最終学歴詐称ではないか」との疑惑が持ち上がりました。発端は、6月初旬に市議会議員全員のもとへ届いた一通の匿名文書。「東洋大学卒ってなんだ!」と強い口調で記された内容には、彼女が“除籍”だったとする証言が書かれており、市内に動揺が広がることとなります。
田久保市長は当初、この文書を「証拠に基づかない怪文書」と断じ、対応を拒否していました。しかし、市の広報誌には「平成4年 東洋大学法学部卒業」と明記されていたこともあり、市議会や市民の間では疑念が拡大。説明責任を求める声が高まっていきました。
市議会や市民の間で疑念が広がる中、説明責任が問われる展開に
この問題はやがて市議会でも取り上げられ、田久保市長は一度は「弁護士に任せている」として個人の発言を控える構えを見せましたが、翌日には態度を一転。「説明できることは説明していく」と述べ、自ら会見を開く方針を示しました。そして7月2日、ついに開かれた会見の中で、田久保市長は大学に確認した結果「除籍」であったと報告。「卒業していると選挙中に言った事実はない」「選挙法上は問題ない」という認識も明かしました。
この一連の騒動は、彼女の市政運営にどのような影響を与えるのでしょうか。また、東京都知事の小池百合子氏に類似の疑惑があることからも、公職者の経歴と説明責任が改めて問われています。次の章では、田久保市長がどういった人物であり、なぜ注目を集めたのかを見ていきます。
1.田久保眞紀市長とは何者か
市長選で“下剋上”を果たしたジャンヌ・ダルク的存在
田久保眞紀氏が伊東市の市長選に出馬したのは、多くの人にとって“意外な挑戦”だったかもしれません。地元ではあまり知られていない存在だった彼女は、選挙戦の中で現職に挑む構図となり、いわば“下剋上”の立場で戦いました。しかし、その姿勢がかえって有権者の心を動かしたようです。清廉な印象と、しがらみのない政治を掲げた訴えが共感を呼び、とくに若い世代や女性層からの支持を集めました。
当選後、「伊東のジャンヌ・ダルク」と報じられたのは、その戦いぶりと新しい風を感じさせるスタイルがあったからこそです。現職に打ち勝つだけでなく、「市民に近い存在」としてのイメージを貫いたことが、多くの人にとって新鮮に映ったのでしょう。
広報誌に記載された経歴とその背景
田久保市長に関する広報誌には、「平成4年 東洋大学法学部卒業」と明記されていました。これが後の疑惑の出発点となるのですが、当初この経歴に対して市民から疑念が出ることはほとんどありませんでした。大学卒業という肩書きは、政治家として一定の信頼感を与えるものであり、また彼女自身が市政について語る中で「法学的視点」や「制度への理解」をにじませる発言をしていたため、経歴は自然に受け入れられていました。
ただし、広報誌の経歴が市長本人による申請に基づいていたのか、市側で確認されたものなのかは定かではありません。形式的に掲載されただけであれば、チェック体制の甘さが問われる可能性もあります。
当選後の市政運営と注目された改革姿勢
田久保市長が掲げた改革の中には、市民サービスの向上や行政の透明化、女性目線の福祉政策などが含まれていました。とくに「役所をもっと開かれた場所にしたい」という発言には、多くの市民が期待を寄せたようです。
また、SNSや動画を使った情報発信にも積極的で、若い世代に向けた“見える市政”の実現を目指していました。伊東市という地方都市において、女性市長の誕生そのものが象徴的な出来事であり、その姿勢が変革の象徴として捉えられたのです。
ところが、まさにこれからというタイミングで持ち上がった学歴疑惑。市民の間では「せっかくの希望だったのに」「信じたのに…」という落胆の声も少なくありませんでした。次章では、この疑惑がどのようにして広まり、問題視されるようになったのかを追っていきます。
2.学歴詐称疑惑の経緯と証拠
匿名の「怪文書」が市議全員に届く
騒動のきっかけは、6月初旬に伊東市議会の議員全員へ届けられた1通の封書でした。差出人は不明で、いわゆる「怪文書」とされるものです。その文書には、「東洋大学卒ってなんだ!彼女は中退どころか、私は除籍であったと記憶している」との記載があり、田久保市長の最終学歴に疑念を投げかけていました。言葉遣いもやや攻撃的で、内容の真偽をめぐって市議会内や市民の間でさまざまな憶測を呼びました。
匿名文書という性質上、信頼性に欠けるとする声もある一方で、市の公式広報誌に「平成4年 東洋大学法学部卒業」と明記されていたことから、「これが事実なら公文書に虚偽が載っていたことになるのでは?」と疑問視する意見が広がっていったのです。
広報誌との整合性をめぐる市議会での疑問
実際、田久保市長が選挙後に掲載された市の広報誌には、自らの経歴として「東洋大学法学部卒業」と記されています。これは、市の発行物として多くの市民に配布され、公式記録としても残るものです。
ところが、匿名文書の内容を受けて、一部の市議はこの記載と実際の経歴との間に矛盾があるのではないかと指摘しました。広報誌に載せる経歴は、通常本人の申請に基づくことが多いとされており、「卒業していないのであれば、虚偽記載ではないか」と問題視する声が市議会で上がりました。
市長は当初、正副議長に卒業を示す資料を提示したとされていますが、その場でのコピーは認めず、内容も詳細には明かされませんでした。この対応がかえって疑念を深める結果となり、真実を明らかにする必要性が高まっていきました。
除籍が判明するまでの対応と発言の変遷
この問題が公に取り上げられるようになってからも、田久保市長は「証拠に基づかない怪文書には対応しない」という立場をとっていました。しかし6月25日に行われた市議会本会議でこの件に関する質問が上がると、「この件はすべて代理人弁護士に任せている」と答え、個人としての説明を避けました。
ところが、その翌日には一転。「現時点で説明できることは説明していく」と発言を改め、会見を開く意向を表明します。実際に6月28日には自ら東洋大学へ足を運び、卒業証明書を取得しようとしましたが、大学側から「除籍であることが確認された」との回答を受けたとのことでした。
7月2日に行われた記者会見では、この事実を自らの口で説明。「大学を卒業していると選挙期間中に明言したことはなく、あくまで市の広報誌に記載されたもの」と主張したうえで、「公職選挙法上の問題はない」との弁護士の見解も紹介しました。
とはいえ、「卒業」と記載された広報誌の存在や、それに対する説明責任のあり方は、いまだ市民の中で議論の的となっています。次章では、注目の会見で語られた内容と、それが今後の市政に与える影響について見ていきます。
3.記者会見と今後の影響
会見での謝罪と除籍の事実説明
2025年7月2日、伊東市役所で開かれた記者会見には、地元メディアをはじめとした多くの記者が詰めかけました。冒頭、田久保眞紀市長は「私の経歴にまつわることで市民に迷惑と心配をかけたことを深くお詫びしたい」と謝罪の言葉を述べました。会見は当初非公開の方向も検討されたようですが、説明責任を果たすべきとの世論の高まりを受けて、公開形式に切り替えたと見られています。
最大の注目点は、大学から「卒業ではなく除籍」との返答があったという事実です。田久保市長は6月28日に東洋大学に出向き、卒業証明書の取得を試みましたが、大学側から「除籍となっている」と説明を受けたと報告しました。ただし本人は「卒業したとは公言していない。広報誌の記載についても自ら意図して書かせたわけではない」との立場を貫きました。
会見中、市長は記者の質問に対して、時に言葉を詰まらせながらも「説明できることは説明していく」と繰り返しました。その一方で、「詳細は弁護士と相談しながら判断する」として、いくつかの問いには明確な回答を避ける場面もありました。
公職選挙法上の問題はあるのか
田久保市長が会見で繰り返し述べたのが、「自らが卒業したと選挙中に明言したことはない」という点です。これは、仮に最終学歴が事実と異なっていても、選挙活動中に明示的な虚偽発言がなければ、公職選挙法には違反しないという立場に基づいたものです。
実際に、弁護士からは「法的には問題ない」との見解が示されており、市長もその主張を支えに説明しています。ただし、「卒業」と明記された広報誌が市の発行物である以上、政治的なモラルや説明責任の観点からは疑問の声が根強いままです。
また、東京都知事・小池百合子氏にも似たような学歴疑惑が過去に取り沙汰されましたが、こちらも法的な追及には至っていません。こうした事例と照らし合わせると、「選挙法の抜け道」といった印象を持つ市民がいるのも無理はないでしょう。
市民の信頼回復と百条委員会の行方
7月現在、伊東市議会では百条委員会の設置に向けた動きが進んでいます。百条委員会とは、地方自治法に基づき、議会が特定の問題に対して調査権限を持って設置する調査機関で、関係者への証人喚問や資料の提出要求が可能になります。事実関係の究明が進むことで、市民の不信感の払拭につながる可能性もあります。
一方で、市政の停滞を懸念する声もあります。「学歴の問題よりも、市民サービスの充実や財政の健全化を優先してほしい」という意見も多く、田久保市長に求められるのは、信頼を回復しつつ政策を前進させることです。
今後、百条委員会の調査結果がどういった内容になるのか、そして田久保市長がどのように信頼を取り戻していくのかが、伊東市の政治における重要な分岐点となりそうです。
まとめ
伊東市の田久保眞紀市長をめぐる学歴詐称疑惑は、匿名の怪文書から始まり、市の公式広報誌に記載された経歴との食い違い、市議会での追及、そして最終的には除籍が判明するという展開をたどりました。市長自身は「卒業とは公言していない」「法的には問題ない」と繰り返しており、公職選挙法上の違反は認められていないものの、市民の間では「誤解を招いたのではないか」という疑念が残り続けています。
この問題は、経歴や実績に対する信頼の重要性を改めて浮き彫りにしました。政治家にとって、何を語るかだけでなく、どう見られているか、どう受け取られているかが市政運営の根幹に関わってくるのです。
今後、百条委員会の調査が進めば、さらに詳しい事実関係が明らかになるかもしれません。一方で、市民の暮らしを支える行政の停滞は避けなければなりません。田久保市長が今回の事態から何を学び、どう信頼を再構築していくのか。伊東市の今後を見守るうえで、私たち一人ひとりの関心と声が、政治を動かす力になることを忘れてはならないでしょう。
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