夏の風物詩といえば、やっぱりうなぎ。土用の丑の日にうな重を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか?
でも最近、「ニホンウナギが絶滅するかも」「ワシントン条約で規制されるかもしれない」といったニュースを目にするようになりました。
日本の伝統食材として長年親しまれてきたうなぎが、いま危機に直面しているのです。
その背景には、資源の減少、国際的な保護の動き、そして私たちの食習慣の変化が深く関係しています。
この記事では、「うなぎはなぜ守らなければならないのか」「ワシントン条約の影響とは?」「私たちができることは?」という視点から、うなぎの未来についてわかりやすくお伝えしていきます。
はじめに

なぜ今「うなぎ」が注目されているのか?
夏になると「土用の丑の日」に向けて、スーパーや飲食店にうなぎのメニューが並ぶのが日本の風物詩のひとつです。
しかし最近、「うなぎが絶滅するかもしれない」「近い将来、食べられなくなるかも」という話題がたびたびニュースやSNSで取り上げられるようになりました。
特に注目されているのが、ニホンウナギが国際的な保護対象になる可能性についてです。
これは、単なる漁業の話ではなく、私たちの食文化やライフスタイルにも大きく関わってくる問題なのです。
ワシントン条約とはどういうものか
ワシントン条約は、正式には「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」といい、希少な生き物が乱獲や過剰な輸出入によって絶滅しないように守るための国際的なルールです。
たとえば象牙やトラの毛皮、熱帯魚の一部などが有名ですが、近年は魚類にもその対象が広がってきています。もしうなぎがこの条約の規制対象となれば、海外との輸出入が制限されたり、厳しい管理のもとでしか取引できなくなる可能性があります。
つまり、「うなぎを守る」ことと「自由に食べる」ことのバランスをどうとるかが、今まさに問われているのです。
1.うなぎの現状と問題点

日本でのうなぎ消費と漁獲の実態
日本では毎年、特に夏の「土用の丑の日」に向けてうなぎの需要がピークになります。スーパーや専門店は予約販売を行い、うな重や蒲焼きが飛ぶように売れる一大イベントです。
一方で、その裏では日本沿岸の漁師たちが川や海でうなぎを漁獲し、養殖業者へと供給する仕組みが続いています。
近年、国内で捕れるニホンウナギの量は減少傾向にあり、代わりに輸入に依存する場面も増えています。
ニホンウナギの資源量の減少
かつては、川辺や小川でも普通に見られたうなぎですが、現在ではその姿を目にするのは珍しくなりました。
研究によると、ニホンウナギの資源量は過去数十年で数十分の一まで減少していると言われています。
原因としては、乱獲やダム建設による生息地の分断、水質の悪化などが挙げられます。
実際、「子供の頃はよく川で捕まえられたのに…」という声を聞く世代が増えており、もはや身近な自然の風景自体が変わってきています。
過剰な稚魚の取引とその影響
本格的な養殖を担うためには、まず天然の稚魚(シラスウナギ)を確保する必要があります。
この稚魚は漁師が毎春、川の河口や沿岸で手網などで採取し、養殖業者に渡されます。
ところが、近年はその採取量が急激に増加し、国内だけでなく中国や台湾などへも大量に輸出されています。
需要に応じて高い値がつくため、過剰採取や違法取引も後を絶ちません。
その結果、自然界への影響がますます深刻化し、将来の資源回復が困難になる恐れがあります。
このように、日本のうなぎは「消費が続き、漁獲も行われている」一方で、「資源が減り、稚魚の過剰採取により未来の供給が不安定になっている」という二重の問題を抱えています。
次のセクションでは、国際的にどのような保護策が検討されているのか詳しく見ていきます。
2.ワシントン条約の対象になるとは?
ワシントン条約の仕組みと分類
ワシントン条約では、生き物の国際取引を保護の必要性に応じて3つのランク(附属書)に分けて管理しています。
もっとも厳しい「附属書Ⅰ」は、絶滅の恐れが極めて高い種で、商業目的の取引は基本的に禁止されています。「附属書Ⅱ」は、現時点では絶滅の危険がないものの、無制限な取引が将来の存続に影響を与える恐れがある種が対象です。
うなぎが検討されているのは、この「附属書Ⅱ」にあたるとされています。
つまり、うなぎがこのランクに分類されれば、輸出入には国の許可が必要となり、取引の量やルートも管理されるようになります。
たとえば日本から中国や香港へ活きたうなぎを輸出するには、厳しい書類審査と監視体制が求められることになります。
うなぎが対象に検討されている背景
では、なぜ今、うなぎがその対象に上がっているのでしょうか?理由ははっきりしています。
ここ数十年、ニホンウナギの資源量が目に見えて減っているからです。川や海でうなぎを見かける機会は減り、「昔は近所の小川で獲れた」なんて話も、今や懐かしい思い出になりつつあります。
さらに深刻なのは、こうした状況のなかでも大量の稚魚(シラスウナギ)が国内外で取引されていることです。日本では、漁業者がとった稚魚を養殖業者が買い取り、店頭に並ぶ蒲焼きへと加工されますが、その一方で違法に密漁されたり、ルールを無視して海外へ流れてしまう事例も報告されています。
環境団体や国際機関から「このままではニホンウナギが本当に絶滅してしまう」との声が上がる中で、保護の必要性が強まっているのです。
他の魚種が対象になった事例との比較
うなぎ以外にも、これまでにワシントン条約の対象となった魚は少なくありません。
たとえば「ヨーロッパウナギ」はすでに附属書Ⅱに掲載され、EU諸国では輸出が原則禁止になっています。かつてはフランス料理などにも使われていた高級食材でしたが、資源減少が深刻化し、現在では厳重な保護対象となりました。
また、マグロの一種である「クロマグロ」も国際的な管理が進められており、日本でも漁獲枠が細かく設定されています。こうした流れを見ると、うなぎが対象となるのも時間の問題だという見方もあるのです。
このように、ワシントン条約の適用は「絶滅させないためのブレーキ」として機能していますが、その一方で、流通や文化、産業にも影響を及ぼすことから、慎重な議論が求められています。

3.うなぎ文化とこれからの食卓
うなぎを守るための養殖や流通の工夫
うなぎを未来に残すため、さまざまな取り組みも始まっています。
そのひとつが「完全養殖」です。これは自然界から稚魚をとるのではなく、うなぎが卵を産むところから人工的に育てる方法です。
実はうなぎはどこで生まれているのか長年わかっておらず、完全養殖は夢の技術とされてきました。しかし近年、研究の成果でようやく商業化に近づきつつあり、一部の企業では試験的な流通も始まっています。
また、流通面でも、過剰な仕入れや売れ残りを防ぐ「予約販売」や「必要数だけ仕入れる」スタイルが広がっています。
コンビニやスーパーでも、「予約販売でフードロス削減」といった掲示を見かけた方もいるのではないでしょうか。こうした一つ一つの工夫が、うなぎを守る大きな力になります。
日本の伝統食文化とのバランス
「うなぎは日本の夏の風物詩」「お祝いごとにはうな重」——そんな文化を簡単に失いたくないと考える人も多いはずです。実際、うなぎを食べるという行為には、味だけでなく思い出や季節感が詰まっています。
ただし、文化を守るためには、その“源”である自然環境を守らなければいけません。
必要以上に食べるのではなく、「年に一度の特別な食事」として味わうとか、「国産うなぎ」や「認証を受けた持続可能な商品」を選ぶなど、意識を変えるだけでも大きな意味があります。
また、最近では「うなぎ風」の植物性代替食品も登場し、話題になっています。
「あの味が好きだけど、資源の問題も気になる…」という人には、こうした代替品を選ぶというのもひとつの選択肢です。
消費者としてできることとは
私たち一人ひとりにも、できることはあります。
まずは「今、うなぎの資源が危機にある」ということを知ること。そして買い物をするときに「どこで、どんなふうにとられたうなぎなのか」を気にかけてみること。
最近では「MSC認証」など、持続可能な漁業で獲れた商品にラベルが付いていることもあります。そうした商品を選ぶことは、うなぎ資源を守る応援にもなります。
また、土用の丑の日に無理して大量に買うのではなく、「少しの量で丁寧に味わう」「フードロスを出さない」ことも重要です。家庭でのひと工夫や、声に出して伝えること——それが未来の食卓を守る力になるかもしれません。
4.小泉農水大臣の発言と各方面の反応
小泉大臣の立場と日本政府の方針
2025年、欧州連合(EU)が「ニホンウナギをワシントン条約の対象に加えるべきだ」と提案したことに対し、小泉進次郎農林水産大臣は「極めて遺憾」と強く反発しました。
小泉大臣は「現在の日本の管理体制で十分資源保護が可能であり、国際取引が絶滅の原因にはなっていない」と説明。中国・韓国・台湾と連携しながら、輸出入の監視体制も整備しているとして、あくまで“自主的な管理”を重視する姿勢を示しています。
また、日本政府は11月に予定されているCITES(ワシントン条約)締約国会議に向け、EUの提案に反対する方針を明言しています。
生産者の声:規制は死活問題
全国のうなぎ養殖業者や飲食店からは、強い懸念の声が上がっています。
たとえば千葉県成田市の老舗うなぎ店では「ヨーロッパの人たちは自然の豊漁・不漁の周期を考慮していない」「このままでは廃業もあり得る」との声も。
特に問題視されているのは、ワシントン条約で規制されると輸出手続きが複雑になり、コストや時間の負担が増大する点です。
シラスウナギの仕入れから出荷まで、ただでさえ手間がかかる業界にとって、国際規制の追加は“とどめの一撃”となる可能性もあるのです。
消費者の声:うなぎは守りたい、でも食べたい
一般の消費者からは、「年に一度のごちそうが遠のくのは寂しい」「土用の丑の日は続けてほしい」という文化的な側面を重視する声が聞かれます。
一方で、資源が減っているなら無理に食べない方がよいのでは、という意見もSNSなどで見られ、意識は少しずつ変わってきているようです。
また「高くて手が出ない年もあるけど、やっぱりうなぎは食べたい」「認証された商品を選んで応援したい」といった前向きな声もあり、“消費の仕方”を見直す動きも出ています。
海外の反応:EUは保護優先、日本は反発
EUは、すでに「ヨーロッパウナギ」を厳しく規制しており、「うなぎ全体を国際的に保護しなければ資源は持たない」と主張しています。
2027年の全面規制を視野に、着々と条約手続きを進めており、日本の反対にもかかわらず規制の方向性は崩していません。
国際社会では「食文化は大切だが、絶滅したら意味がない」とする声も強く、日本との価値観の違いが浮き彫りになっています。今後、国際会議での攻防が注目されるポイントです。
マグロ、サケ、その他の魚介類に関する国際的な保護や管理状況
🐟 マグロ類(特にクロマグロ・ブルーフィン)
- 大西洋クロマグロ(アトランティック・ブルーフィン・ツナ) は、ICCAT(国際マグロ類保存委員会)が管理を監督していますが、資源減少が深刻で、過去40年で最大80%以上激減したと報告されています 。
- 非常に高価な高級魚としての人気ゆえに違法漁獲や過剰漁が続き、CITES(ワシントン条約)の 附属書Ⅰ 掲載が提案されています。これは国際取引の全面禁止につながる厳しい保護措置です 。
- 実際、EUを中心に強く後押しされており、資源回復のための緊急措置として注目されています 。
🐟 サケ類(特に大西洋サケ)
- アメリカ北東部の 大西洋サケ(Gulf of Maine DPS) は、米・ESA(絶滅危惧種法)に基づき「絶滅危惧種」に指定されています。ダム建設や汚染、過剰漁獲によって生息数が激減し、野生回復プログラムが実施中です 。
- CITESでは現在リストされていませんが、米国内での厳格な国内保護措置が進められています。
🐟 その他の魚介類
- 南方クロマグロ(サザンブルーフィン・ツナ) はIUCNで「絶滅危惧(Endangered)」と評価され、2021年には保護対象として再分類されています 。
- CITES掲載は検討段階にありますが、漁獲制限や国際協定での資源回復が進められています。
- サメ類やサンゴなども一部でCITESの対象になっており、国際的に取引制限が強化されつつあります 。
✅ 全体のまとめ
種類 | 保護レベル・管理状況 |
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アトランティック・ブルーフィン | CITES附属書Ⅰ提案中 → 国際取引禁止を検討中 |
南方ブルーフィン・ツナ | IUCNで絶滅危惧 → CITES検討中 |
大西洋サケ(米東部) | 米国内でESAに基づき「絶滅危惧種」に指定・保護中 |
その他(サメ、サンゴ等) | CITES附属書Ⅱなどで取引制限が進む |
これらの例に見るように、魚介類でもワシントン条約や国内法による保護・取引制限が強化されつつあります。ニホンウナギだけでなく、他の高級魚や絶滅が懸念される海洋生物も、国際・国内レベルで保護の対象となっています。
今後も食文化とのバランスを考えながら、持続可能な資源管理へと進んでいく必要があります。
まとめ
うなぎは私たち日本人にとって、特別な思い出や文化と結びついた大切な食材です。
しかしその裏では、資源の減少や違法取引といった深刻な問題が進んでおり、ついにワシントン条約で国際的な保護対象とするかどうかが議論されるまでになりました。
この記事では、うなぎの現状やワシントン条約の意味、そして文化を守りながら資源を保護するための工夫について紹介してきました。
完全養殖の技術、流通の見直し、代替食品の登場、そして消費者としての選択——どれもが「うなぎの未来」につながるアクションです。
「うなぎを守ることは、自分には関係ない」と思うかもしれません。でも、買い物をする、食べる、選ぶ、その一つひとつが小さな力になっていきます。
豊かな自然と文化を未来に引き継ぐために、私たちにできることを一緒に考えていきませんか。
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