私たちの住む日本の山奥で、なんと“宇宙のなぞ”を解き明かす研究が進んでいるってご存知でしたか?
その名も「ハイパーカミオカンデ」。
岐阜県飛騨市の地下600メートルにある巨大な空洞に、25万トンもの水をためて宇宙から飛んでくる“見えない粒”をとらえるという、まるでSFのような実験が行われようとしているんです。
宇宙などから降り注ぐ素粒子「ニュートリノ」を観測し、星や物質の成り立ちなどに迫ろうと、岐阜県飛騨市で建設が進められている大規模な観測装置「ハイパーカミオカンデ」の地下の巨大な空洞が28日、報道関係者に公開されました。
そんな最先端の科学とロマンが詰まった「ハイパーカミオカンデ」について、なるべくわかりやすく解説します。
はじめに

次世代観測装置「ハイパーカミオカンデ」とは
「ハイパーカミオカンデ」は、目には見えない素粒子「ニュートリノ」を捉えるために作られている巨大な観測装置です。現在、岐阜県飛騨市の山奥の地下600メートルにて建設が進んでおり、完成後は世界最大級のニュートリノ観測施設となる予定です。
この装置のすごいところは、地下に直径約69メートル、高さ約94メートルというビル30階分に相当する大空間を掘り、その中に超純水で満たした巨大水槽を設置する点です。そこに飛び込んでくるニュートリノが水とぶつかると、ごく微かな光が出ます。その光を約2万個ものセンサーでとらえ、素粒子の謎を解明しようという壮大な計画なのです。
宇宙線研究と飛騨の地下という選択
なぜこんな深い場所で観測するのかというと、地上には人間の生活や太陽から飛んでくる様々な粒子があり、それが観測の「ノイズ」になってしまうからです。地下深くに潜ることで、そうした邪魔な情報を避け、ニュートリノだけをピンポイントでとらえることができるようになります。
飛騨市は、かつて「カミオカンデ」や「スーパーカミオカンデ」といった先代の観測装置が設置された実績のある地域です。地質が安定していて、大規模な掘削にも耐えられる土壌があることから、今回もこの地が選ばれました。日本の山奥が、いま世界中の科学者たちの期待を集めている――それが「ハイパーカミオカンデ」なのです。
1.ハイパーカミオカンデ建設の背景

カミオカンデ・スーパーカミオカンデとの違い
「ハイパーカミオカンデ」という名前には、過去の観測装置「カミオカンデ」「スーパーカミオカンデ」の系譜が込められています。1980年代に登場した「カミオカンデ」は、日本のニュートリノ研究の出発点ともいえる装置で、太陽や超新星から飛んできたニュートリノをとらえることに成功し、後にノーベル賞受賞につながる発見をもたらしました。
1996年に稼働を開始した「スーパーカミオカンデ」はその改良版で、直径・高さともに約40メートルの巨大な水槽に超純水を貯めて観測を行うものでした。現在も稼働中ですが、時間の経過とともにより精度の高い観測が求められるようになり、さらに大規模で高性能な装置が必要とされるようになりました。こうして登場したのが、「ハイパーカミオカンデ」なのです。
その名のとおり「スーパー」よりも「ハイパー」。直径は約1.7倍、高さも2倍以上。水槽の容量は、スーパーカミオカンデの約10倍にも達する見込みで、より微細なニュートリノの動きを高感度でとらえることが可能になります。
東京大学宇宙線研究所の狙い
この巨大プロジェクトを推進するのが、東京大学宇宙線研究所です。研究所が目指しているのは、ニュートリノの性質をより深く理解することで、宇宙の始まりや、なぜ私たちの宇宙には「物質」が多く、「反物質」が少ないのか――といった、宇宙の根本的な謎を解き明かすことです。
ニュートリノは、ほとんど質量がなく、物質とほとんど反応しない「幽霊のような粒子」です。しかし、それでもわずかに水と反応して光を出す特性があり、その「かすかな反応」を大量にとらえることができれば、ビッグバンのあとに何が起きたのか、そして私たちが存在する理由さえ見えてくるかもしれない――そんな期待が込められています。
また、宇宙線研究所はこの装置を国内だけでなく、世界中の研究者と共有する方針です。アメリカやヨーロッパの研究機関とも連携し、国際的な研究ネットワークの中で成果を出していこうとしています。
国際共同研究の位置づけ
ハイパーカミオカンデは、もはや日本だけの施設ではありません。アメリカのFermilab(フェルミ国立加速器研究所)や、ヨーロッパのCERN(セルン)など世界中の研究機関と連携し、「国際共同研究施設」としての役割が強まっています。
たとえば、アメリカの粒子加速器からニュートリノを日本へ飛ばし、ハイパーカミオカンデでその挙動を検出するという壮大な実験も計画されています。地球を横断するような規模の実験によって、ニュートリノの「消える性質」や「変化する仕組み」がより正確に解明されることが期待されています。
このように、ハイパーカミオカンデは、過去からの技術の積み重ねと、未来への挑戦が交差する、世界的な研究拠点として注目されているのです。
2.巨大空洞の掘削と構造

地下600メートルの空間設計
ハイパーカミオカンデの観測装置が設置されるのは、岐阜県飛騨市の山奥、地表から600メートルも下の地下空間です。これは、地上から飛んでくる宇宙線や雑音を避け、ニュートリノだけを観測するために必要な深さです。600メートルというと、東京スカイツリー(約634メートル)をほぼ丸ごと地下に埋めたようなイメージです。
この空間はただ深いだけではなく、安全で長期にわたって安定した観測ができるよう、岩盤の硬さや地質構造を事前に詳細に調査したうえで設計されています。掘削には数年をかけ、地中深くでの作業に対応するための最新の掘削技術や重機が導入されました。
直径69メートル・高さ94メートルの意味
完成した空洞は、直径が69メートル、高さが94メートル。これはビル30階分にも相当し、東京ドームのおよそ1/3を縦に切り取って地下に埋めたような、まさに「地下の大聖堂」といえる規模です。
この巨大空洞の中に、今後設置される水槽には約25万トンの超純水が満たされる予定です。そのため、わずかなひび割れや地盤の不安定さも許されません。これほど大規模な地下構造物は、日本国内でも類を見ず、工学的にも非常に挑戦的なプロジェクトとなりました。
空洞の大きさには理由があります。観測できるニュートリノの数を増やすためには、より広く、より多くの水を蓄えた空間が必要です。また、光センサーを壁一面に設置するスペースも必要であり、その分だけ空洞の直径と高さも大きくなりました。
掘削時に実施された追加の安全対策
本来、ハイパーカミオカンデの観測開始は2027年を予定していましたが、この掘削作業中にいくつかの予想外の課題が明らかになりました。たとえば、地下水の浸入リスクや、地盤の一部にやや脆い層があったことなどです。
そこで、現場では安全性を最優先し、コンクリートによる補強や排水対策、作業員の安全を守るための避難ルートの見直しなど、追加の安全対策が次々と講じられました。結果として、スケジュールは1年ほど後ろ倒しになりましたが、長期的に安定した運用を確保するためには必要不可欠な措置でした。
こうした慎重な対応があったからこそ、今後数十年にわたって、世界中の科学者が安心してこの場所で研究に取り組める環境が整ったのです。
3.観測機器とニュートリノ実験の仕組み

超純水と巨大水槽の役割
ハイパーカミオカンデの心臓部ともいえるのが、巨大な水槽に満たされる「超純水」です。これは、私たちが普段使う水道水やミネラルウォーターとはまったく異なり、限りなく不純物を取り除いた、ほぼ「水分子だけ」の水です。指紋ひとつで汚染されてしまうほど繊細な性質を持ち、特別な設備で24時間体制で管理されます。
なぜそんな水が必要なのかというと、ニュートリノという粒子は非常に反応しにくく、普通に生活していても決して感じることはありません。しかし、超純水の中では、まれに水の分子と衝突し、微弱な「チェレンコフ光」と呼ばれる青白い光を発します。この光こそが、私たちがニュートリノの存在を知る唯一の手がかりとなるのです。
巨大水槽には約25万トンもの超純水が注がれ、地中の空洞いっぱいに広がります。その規模は、25メートルプール約6,000杯分。これだけの量を使うことで、より多くのニュートリノとの衝突チャンスを得ることができます。
約2万個の高感度光センサーの性能
ニュートリノによるわずかな光を逃さず捉えるために、ハイパーカミオカンデの内壁には約2万個もの高感度な光センサーがびっしりと取り付けられます。このセンサーは「光電子増倍管」と呼ばれ、人間の目では見えないほどの弱い光でも電気信号として検出できる優れものです。
このセンサーは球形で直径約50センチ。感度が非常に高く、たとえば薄暗い夜道で遠くの星がチラッと輝くのを見逃さないような能力を持っています。これが2万個も並ぶことで、地下空間のどこでどんな光が発生したかを、立体的に把握することができるのです。
センサーは一つひとつが精密な機械であり、取り付け作業は高所作業車を用いて慎重に行われます。センサーの配置には計算が必要で、光の反射や屈折をシミュレーションしながら、最適な角度で取り付けられていきます。
実験開始延期の理由と今後の見通し
当初、ハイパーカミオカンデの実験は2027年に始まる予定でした。しかし、掘削中の予想外の事態や、コストの見直し、安全対策の強化などを理由に、現在は2028年の実験開始が見込まれています。
たとえば、水槽の設計をより効率的な構造に変更したことで費用を抑える一方で、施工に時間がかかるようになりました。また、地下空間の安全性を最大限に高めるため、地盤補強や避難通路の追加なども行われた結果、スケジュールに余裕を持たせる判断が下されたのです。
とはいえ、プロジェクト自体は着実に前進しており、2025年度中には観測機器の設置が本格化すると見られています。今後、世界中の研究者がこの施設に注目し、次世代の宇宙・物理研究がここから始まろうとしているのです。
ハイパーカミオカンデの将来について4つの視点
1. 実験の開始と今後の運転予定
- 2027年末〜2028年頃に、データ収集が開始される見通しです。J-PARCから送られるニュートリノビームの観測と並行しながら、自発的に来る太陽・大気・超新星ニュートリノの検出が行われます 。
- 計画では、少なくとも20年以上にわたる長期運用が想定されており、2030年代以降も高統計データによる物理解析が続けられます 。
2. 研究の主なゴールと期待される科学成果
- ニュートリノのCP対称性の破れ
ニュートリノと反ニュートリノで振る舞いに違いがあるかを調べることで、宇宙の物質・反物質のアンバランスの謎に迫ります。数年のデータで5σ(高い信頼度)で検証できる可能性があります 。- ニュートリノ質量順序(並び順)の解明
大気ニュートリノやビームニュートリノを比較することで、どの質量状態が最も重いかを判別できます 。 - 陽子崩壊の探索
万物の安定性を左右する陽子の寿命(<p>10³⁵年)という超長寿命現象を、20年の運用で限界に迫ります 。- ニュートリノ天文学・地球ニュートリノ観測
太陽ニュートリノ、超新星爆発ニュートリノ、地球内部からのニュートリノなど、多彩な天体や現象を高精度で観測できます 。
3. 国際協力と設備の拡張
- 英米欧やアジア諸国を含む20カ国以上、約340人が参加する国際プロジェクトとなっており、研究・設備・資金面でもグローバルな展望を持っています。
- 将来的には、韓国に第2検出器を設置する構想があり、J-PARCビームの「長距離ベースライン実験」がより強化される見込みです。
4. 他プロジェクトとの連携と国際競争
- アメリカのDUNE計画や中国のJUNOとともに、グローバルなニュートリノ研究プラットフォームの一翼を担います 。
- 各プロジェクトで得た成果は相互確認・補完され、研究の信頼性と深みが増すことが期待されています。
🌟まとめ
ハイパーカミオカンデは、2027年頃にデータ取りを始め、10〜20年規模で”宇宙の根幹”を探る多面的な研究を遂行します。
CP対称性、陽子崩壊、ニュートリノ天文学など、全宇宙レベルの問いに応える可能性を秘めたプロジェクトです。完成すれば、世界を代表する素粒子研究施設となり、次世代科学の中心に位置するでしょう。
ハイパーカミオカンデを使うことで、宇宙の成り立ちや構造に関するいくつかの大きな謎に近づけると期待

🌌 1. なぜ“私たち”が宇宙に存在しているのか?
実は、ビッグバンの直後、物質と反物質は同じ量あったはず…なのに、今の宇宙には物質(=私たち)だけが残っています。
これを説明する鍵が「ニュートリノ」という、とても軽くて、見えなくて、でも確かに存在している粒子です。
ハイパーカミオカンデでは、ニュートリノと反ニュートリノが本当に同じ性質なのか?を調べていきます。もし、わずかでも違いがあれば、「反物質が消えてしまった理由」がわかるかもしれません…!
☄️ 2. 超新星爆発の“中身”が見えるようになる!
超新星(星の大爆発)のときには、大量のニュートリノが飛び出します。
でも、その光は星の表面しか見せてくれません。
ニュートリノは「星の内部から」飛び出してくるので、星の中で何が起きているかを直接観測できるのです!
これって、星の“エコー検査”みたいなもの。目に見えない宇宙のドラマが、リアルに想像できるようになるんです✨
🌍 3. 地球の中まで“透けて見える”かも?
実は、地球の中からもニュートリノが出ています(「地球ニュートリノ」といいます)。
ハイパーカミオカンデでそれをとらえることで、地球の深部、マントルやコアの構造や成分を知る手がかりにもなります。
つまり、宇宙だけじゃなくて、「地球のナゾ」にも迫れるんです!
🔬 4. 物質は本当に“壊れない”のか?
ふだん私たちは「物質は壊れない」と思っていますよね。でも理論的には、陽子(私たちの体を作る素粒子の一部)も、めちゃくちゃ長い時間が経てば壊れるかもしれないんです。
ハイパーカミオカンデでは、それを地道に長期間観測することで、「本当に壊れないのか?」を世界で初めて確かめようとしています。
🪐 まとめ:わかるのは“宇宙の始まり・今・未来のヒント”!
ハイパーカミオカンデで直接「宇宙のすべて」がわかるわけではありませんが…
- なぜ私たちが存在するのか
- 星の死にざま(超新星)
- 地球の内部の構造
- 物質の“究極の運命”
といった、宇宙のしくみを根っこから解き明かすカギを手に入れるための、世界トップクラスの装置なんです!
まとめ
ハイパーカミオカンデは、ただの「観測装置」ではありません。
地下600メートルに広がる巨大な空間、約25万トンの超純水、そして2万個を超える高感度センサー。それぞれが繊細かつ壮大な設計思想のもとに組み合わさり、宇宙の根源に迫る最前線の研究がここから始まろうとしています。
このプロジェクトの背景には、ノーベル賞にもつながった日本のニュートリノ研究の伝統と、東京大学宇宙線研究所の挑戦があります。そして、その拠点となる飛騨の山奥には、国際的な注目が集まっています。
掘削の延期や安全対策の強化といった課題にも真摯に向き合いながら、2028年の観測開始を目指して着実に歩みを進めるハイパーカミオカンデ。
これから数十年にわたり、地球の奥深くで宇宙の謎が一つひとつ明らかになっていく――そんなロマンが、静かに、しかし確かに動き始めています。
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