京都大学と住友林業が共同で開発している「木造人工衛星(LignoSat)」が注目を集めています。
2024年に打ち上げが成功しましたが、通信はできずに第1号機は終了しました。
それでも、なぜ木造の人工衛星が必要なのか?
地球に優しい宇宙開発とは?宇宙開発の未来について紹介します。
木造人工衛星ってなに?
「木造人工衛星」と聞いて、えっ?と思われる方も多いですね。
これは、京都大学と住友林業が共同で進めている“LignoSat(リグノサット)”というプロジェクトで、地球にやさしい素材「木」を使って人工衛星をつくろうという世界初の試みです。
プロジェクトの背景と目的
実は人工衛星によるスペースデブリ(宇宙ゴミ)の増加や、宇宙開発による環境負荷が問題になっています。
現在の人工衛星は金属製がほとんどで、大気圏に再突入すると燃え尽きずに残骸が落下したり、有害なガスを発生させたりすることもあります。
そこで注目されたのが「木」。
自然素材でありながら、真空や極端な温度変化にも耐えられることが実験で示されつつあり、燃え尽きやすく、地球に優しい素材として期待が高まっています。
開発しているのは誰?京都大学と住友林業の連携
このプロジェクトを進めているのは、京都大学の宇宙総合学研究ユニットと、木材に関するノウハウをもつ住友林業株式会社です。
京都大学はこれまでも超小型衛星の開発に取り組んできた実績があり、宇宙環境における素材の実験や、衛星の設計技術に強みがあります。一方、住友林業は日本を代表する木材のスペシャリストとして、強度・耐久性に優れた木材の選定や加工技術を提供。
この産学連携により、「宇宙でも使える木材」の実現に向けて、素材開発・強度試験・設計・製造といった多方面の技術が融合しています。まさに、日本ならではの技術と発想が詰まった挑戦なのです。
なぜ木を使うの?意外なメリットとは

地球に優しい宇宙開発はわかったけど、なぜ木を使うのでしょうか?
金属よりも環境にやさしい理由
人工衛星の素材に「木」を使うという発想は、一見すると非現実的に感じるかもしれません。しかし、木材には金属にはない“やさしさ”と“強さ”が共存しています。
最大のポイントは「燃え尽きる」こと。
人工衛星は使用後に大気圏に再突入し、燃えながら地球に帰ってきます。
金属製の場合、一部が燃え尽きずに地上に落下したり、有害な物質を放出するリスクもありますが、木材でできた衛星はきれいに燃え尽き、地球に害を残しません。
さらに、木材は再生可能な資源であり、製造時のCO₂排出量も少ないのが特長。宇宙開発における「サステナビリティ(持続可能性)」の観点からも、大きなメリットを持っています。
燃えやすい?腐る?宇宙での木材の強さとは
「木は水に弱いし、燃えやすいのでは?」という疑問もあるかもしれません。
でも実は、宇宙には酸素がないため、木材が自然発火することはありません。また、宇宙は真空状態なので、腐ったりカビたりすることもありません。
実際、京都大学の実験では、宇宙と同じような環境(真空・極端な温度変化・放射線など)に木材をさらすテストが行われ、その結果、木材の強度や寸法の安定性に問題がないことが確認されました。
さらに、日本産の木材の中でも、特に加工精度が高く、反りや割れに強い「ホウノキ」が衛星の構造材として選ばれています。自然素材でありながら、人工衛星の部材としての性能も備えている——まさに“和の技術”が宇宙とつながる瞬間です。
木造人工衛星「LignoSat」の開発進捗

LignoSat(リグノサット)は、衛星のサイズは「超小型衛星」と呼ばれる10cm四方ほどのキューブ型で、重さは1キログラム未満。木材で外装を作るという前例のない挑戦のため、設計・実験段階から細心の注意が払われてきました。
2022年からは国際宇宙ステーション(ISS)での耐久試験も行われ、選定された木材が実際の宇宙環境でどう変化するかをチェック。
その結果をもとに最終設計・製造段階に入っており、今後JAXA(宇宙航空研究開発機構)を通じてロケットに搭載されました。
木造人工衛星の放出に成功!しかし…
2024年12月、初の木造人工衛星の打ち上げが成功しました!!
そして去年12月。打ち上げられた木造人工衛星が宇宙に放たれる瞬間を、土井さんや学生など関係者が固唾を飲んで見守ります。 「3、2、1」 ほかの2つの人工衛星と一緒に無事に放出され、歓声が上がります。
(土井隆雄さん)「(宇宙に)行きました。本当にうれしいです。うまく放出されないんじゃないか、どこかに引っかかるんじゃないかという思いが常にあったので、ほっとしました」
ところが、翌朝。人工衛星が日本の上空に差し掛かるタイミングで通信を試みますが… 「何も聞こえてこないなあ…見えなくなる。ダメでした」 その後も通信できず、しばらく様子をみることになりました。
MBSニュースより
LignoSat(リグノサット)1号機は通信ができないまま、5ヶ月でその生涯を終えました。
『木』の特性を生かした2号機の開発に着手
木造人工衛星の1号機が宇宙空間で機能することを確認し、収穫がありました。
アンテナが正常に開かなかった可能性があり、2号機ではアンテナを内部に改良し、宇宙での開放を不要にすることでトラブルを回避する予定です。
木材は電波を通す特性を活かしたアイデアで2号機の開発が進められています。
2025年には、衛星が宇宙から地上へデータを送信する様子や、軌道上でのふるまいが観測される見込みです。
実験結果と今後の課題
これまでに行われた実験では、ホウノキ材を使った試験体が、真空・高放射線・急激な温度変化といった宇宙の過酷な環境でも安定して耐えることが確認されています。特に、割れや歪みといった木材特有の問題がほとんど発生しなかったことは、大きな成果です。
一方で、木材は自然素材ゆえにロットごとの品質差があり、量産や高精度加工には工夫が必要です。また、内部の電子機器との相性や、宇宙での熱の逃し方など、細かな課題も残されています。
しかし、これらのハードルを乗り越えることで、「宇宙でも使える木材」の技術が確立されれば、将来は宇宙ステーションや月面基地の一部にも木材が使われる可能性が見えてきます。LignoSatは、そんな未来への第一歩として、世界中から注目されているのです。
まとめ
京都大学で研究が進められている木造人工衛星LignoSat(リグノサット)について紹介しました。
地球環境に優しい木材を使った人工衛星は、環境破壊を引き起こす金属製の人工衛星に取って代わることが期待されています。
開発には日本の組木細工の技術も応用されたそうです。
LignoSat(リグノサット)1号機は打ち上げに成功しましたが、通信ができないまま終わってしまいましたが、2号機はアンテナを内部に入れることで通信機能を保つ開発が進められています。
科学の進歩と環境の保護を両立する研究に期待が寄せられています。
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