映画『夏目アラタの結婚』の評価と考察 

原作は乃木坂太郎の『夏目アラタの結婚』。主演はこの映画で新境地を見せた黒島結菜と、暴力的役が多い柳楽優弥。この映画では立場逆転? 二人の心理戦の果てには・・・

目次

ストーリー・キャスト・スタッフ

<STORY> 元ヤンで児童相談員の夏目アラタ(柳楽優弥)が切り出した、死刑囚への”プロポーズ“。その目的は、“品川ピエロ”の異名をもつ死刑囚、真珠(黒島結菜)に好かれ、消えた遺体を探し出すことだった。毎日1回20分の駆け引きに翻弄されるアラタは、やがて真珠のある言葉に耳を疑う——「ボク、誰も殺してないんだ。」プロポーズからはじまった、予想を超える展開。日本中を震撼させる2人の結婚は、生死を揺るがす<真相(シーソー)ゲーム>の序章にすぎなかった…。

<STAFF&CAST> 柳楽優弥 黒島結菜 中川大志 丸山 礼 立川志らく 福士誠治 今野浩喜 平岡祐太 藤間爽子 / 佐藤二朗 / 市村正親

監督:堤 幸彦

原作:乃木坂太郎「夏目アラタの結婚」(小学館ビッグコミックスペリオール刊)

脚本:徳永友一 

音楽:Gabriele Roberto A-bee ノグチリョウ

主題歌:「ヴァンパイア」オリヴィア・ロドリゴ(Universal International) 映画オリジナル日本語歌詞訳監修 乃木坂太郎

『夏目アラタの結婚』公式ホームページより

映画『夏目アラタの結婚』2024年9月6日(金)公開 上映劇場一覧

感想・評価 ネタバレあり

本作の原作は乃木坂太郎のマンガ『夏目アラタの結婚』です。マンガは全12巻。昨今、原作と脚本が違うともめる話を耳にしますが、原作者が公式ページに「原作者として真珠の歯並びの再現に本気の映像化を感じました!」とコメントを寄せていることから原作者も納得の出来ということでしょう。また、映画とマンガ原作とは結末が違うそうなので、原作者としては別物ととらえているのかもしれませんね。

原作アリの映画化は、とかく原作と比較されて、原作ファンにとっては厳しい評価を受けることになりますね。ですが、本作はおおむね好意的に受け入れられているようです。

高い評価

  • 黒島結菜と柳楽優弥の演技がよかった。とくに黒島結菜は清純派女優のイメージを覆す怪演!!
  • 運命的な出会いと純愛。予告編の偏見が覆された奇跡のラブファンタジー。
  • いつの間にか二人に共感して、ラストで感動!!
  • 上質のサスペンスかと思いきやファンタジーでありラブロマンス、泣いた。
  • ミステリーだけでなく、コメディやラブストーリーの要素もあり楽しめた。

低い評価

  • 原作を2時間の映画にするには無理がありすぎた、連続ドラマで観たい。
  • 原作の細かい心理描写がカットされていて入り込めなかった。
  • 途中から、安い恋愛ドラマのような展開に冷めた。
  • 長編の原作を2時間に圧縮するために、ツギハギのようになってしまった。

考察

『死刑囚にプロポーズする』という衝撃的な出来事から始まる本作。

『死刑囚との獄中結婚』これが、案外、結構あるようなのです。

例えば、付属池田小事件(2001年6月8日に大阪教育大学附属池田小学校で児童8名を殺害、15名を負傷させる無差別殺傷事件)の宅間守首都圏連続不審死事件(2007~2009年に起こった男性の連続不審死事件)の木嶋佳苗など。死刑囚ではないが英会話学校のイギリス人講師殺人事件の市橋達也にファンクラブがあるという話も・・・

獄中結婚する目的としては、死刑囚は親族しか面会が許されていないので、記者がルポを書くために結婚する場合。この映画でも、真珠が「死刑が確定すると面会や手紙の条件が難しいので、結婚するのは支援者や、情報が欲しい記者が多い。アラタは見つかっていない首や手足を探している事件の関係者?」と聞いていますね。

宅間守の場合は、死刑反対の活動家の女性が妻になっています。「彼を救えるのは私だけ」というDV男に依存する女性もいます。また、ハイブリストフィリア(Hybristophilia、犯罪性愛)、「犯罪=悪」という認識はありながら犯罪者にひかれてしまう人。有名なシリアルキラーに世界中の異性からファンレターが届くのはよくある話のようです。

さて、映画の話。

夏目アラタは、夏目の名前をかたって父親の首を取り戻したいと品川真珠と手紙のやり取りをしていた被害者の息子の依頼を受けて、面会に行きます。しかも面会の相手は、「品川ピエロ」と呼ばれた太って醜い凶悪連続殺人犯です。

元ヤンキーとはいえ、ただの児童相談所のお兄ちゃんです。自分にとっては何のメリットもない、なんともお人よしの話です。ところが、出てきた品川真珠は水色のジャージを着た美人の若い女性だった。一目で手紙の夏目アラタではないと感じた真珠が「思ったのと違う」と出て行こうとする。

「品川真珠、俺と結婚しようぜ」これってヒトメボレだよね!!!

意表を突かれた動揺、異常な空間、限定された時間。そして、トドメは美の中にある醜。原作者がこだわった真珠の醜い歯は、のちに彼女の生い立ちにつながりますが、サイコパスの表現として観るものを圧倒します。『踊る大捜査線 the movie』のサイコパス(小泉今日子)は矯正具を使っていましたが、真珠の歯は、まるで今、人を食ったかのように醜悪です。醜い傷跡がとてつもなくいとおしくなる、人間の心理とは不思議なものです。

短い面会を繰り返し、真珠に翻弄されながらアラタは彼女に触れたいと思うようになり、ついには真珠が飛び出した夢を見る。

品川真珠はどうか?

映画冒頭から何度も現れるX匂いを嗅ぐという動作の意味は、最後の最後で明かされます。つまりは、この映画は真珠の純愛がベースにあるということ。真珠は最初からアラタが探していた運命の人だと知っていた。

真珠が殺した3人(4人?)の男たちは社会的な地位もある大人の男。真珠の人たらしは生まれつきのものか、子供の純粋さによるものか。後半から、真っすぐにアラタに愛をぶつけてくる姿に観客も取り込まれていくようです。そして、二人の逃避行へと・・・一線を越えさせなかったのは、真珠を子供でいさせたいから?

品川真珠は凶悪なサイコパスなどではなく、運命の人への愛を貫く純愛ドラマへと昇華されるのです。観客の後味も悪くない。堤監督が「この映画は、引き算の映画ではなく、てんこ盛りの映画です」と言っていましたっけ。

でも・・・なんかモヤッとしたものが・・・

なぜ毒殺死体をばらばらにする必要が?体の一部を隠す意図は?面会する動機となった少年の父の頭部はどこに?

真珠の醜い歯は、異常犯罪者、サイコパスとしての演出としてつかみはバッチリでしたが、

今、人を食べたかのような歯・・・

「僕、食べたんだ」

あくまで勝手な考察です

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