映画『爆弾』は、都内で暴れた中年男が突然「爆弾を仕掛けた」と語り始めるところから物語が一気に加速します。
取調室で繰り広げられる不気味な心理戦と、東京の街で進むリアルタイムの捜査が交錯し、観客は息の詰まるような緊張の中へ引き込まれていきます。
佐藤二朗の怪演、山田裕貴の静かな熱量、脇を固める実力派キャストの存在感が作品全体に厚みを持たせ、サスペンスでありながら社会派の問いを含んだ深い一本として高い評価を集めています。
この記事では、映画をより深く楽しむために、原作との違い、キャストの魅力、物語が描く都市の恐怖や正義の揺らぎ、SNSの反応、ロケ地情報まで徹底的に解説します。
ネタバレなしでまとめていますので、これから観る人にも安心して読んでいただけます。
映画『爆弾』概要

あらすじ
都内の喫茶店で、自販機と店員に暴行を働いた中年男。警察に連行されたその男は、自らを「スズキタゴサク」と名乗り、霊感が働くなどと称して「今から都内に爆弾が仕掛けられており、次は1時間後に爆発する」と予告する。
最初の爆発は秋葉原で発生し、警察は信じがたい事態に直面。取調室と街中を舞台に、謎の男と刑事たちの心理戦、爆弾を巡る捜査がリアルタイムで交錯していく。
物語は“取調室という密室の会話劇”と“東京の各地で爆弾を探す捜査劇”の二軸で進行する点が特徴。
原作
この映画は、 呉勝浩 氏による同名長編ミステリー小説 『爆弾』(2022年4月刊/講談社) を原作としています。
原作は「このミステリーがすごい!2023年版」などのランキングで上位を獲得しており、実写化にあたり注目を集めていました。
キャスト・スタッフ
- 主演: 山田裕貴 (刑事・類家役)
- 佐藤二朗 (スズキタゴサク役)=謎の中年男で強烈な存在感を放つ。
- その他: 伊藤沙莉、 染谷将太、 渡部篤郎、 坂東龍汰、 寛一郎、 夏川結衣 ほか。
- 監督: 永井聡(『帝一の國』『キャラクター』などの監督)
ロケ地
映画の撮影では、実在の場所を活用しリアルな雰囲気を生んでいます。
- 東京都板橋区三園 「みその幼稚園」 …本作で取調室や幼稚園施設のシーンロケ地として使用されました。
- 茨城県守谷市 新守谷駅付近 …都心の駅シーン、群衆を使った撮影が行われています。
- 千葉県長柄町 「ロングウッドステーション」 …秋葉原爆破シーンなど大規模な撮影が行われた模様。
感想・評価
- 多くのレビューで「取調室という狭い空間での心理戦と、東京中を駆け巡る爆弾捜索という構成が絶妙」「主演・佐藤二朗の怪演が“軸”」「映像化の再現度が高い」といった肯定的な声が出ています。
- SNSでは「137分があっという間だった」「今年No.1」「恐怖と笑いが同居していた」といった反響も。
- 原作既読者からも「映像化であれだけテンポを落とさずに描けているのがすごい」と評価されているようです。
主要キャストの魅力 ― 演技が作品の“温度”を作り出す

物語の中心に立つスズキタゴサクを演じるのは佐藤二朗です。
彼の持つ独特の間、ふざけているのか本気なのか判別できない語り口、突然スイッチが切り替わったような静と動の変化が、タゴサクという人物の正体不明さを極限まで引き上げています。
原作のタゴサクは徹底的に“不気味”な存在ですが、映画版では佐藤二朗の個性によって「恐怖」と「ユーモア」が奇妙に混ざり合い、観客を混乱と緊張へ導く唯一無二のキャラクターになっています。
そんなタゴサクと向き合うのが、山田裕貴演じる類家刑事です。
山田は、相手の言葉を真正面から受け止め、圧に耐えながら真相に迫っていく刑事の姿を、目の表情の変化で丁寧に表現しています。
苛立ち、困惑、怒り、そして責任を背負い込む重さ。これらが表情やわずかな息遣いに刻まれ、観客は彼と同じ視点でタゴサクの不可解さを体験していくことになります。
取調室の外で奔走する捜査本部には、伊藤沙莉、染谷将太、渡部篤郎、坂東龍汰、寛一郎など実力派の俳優陣が揃いました。
伊藤沙莉は的確な判断を積み重ねながら現場を引き締める捜査員を演じ、作品の“緊張の軸”を形成しています。
染谷将太は混乱と焦りの中で揺れる若い刑事の心情を自然な存在感で体現し、渡部篤郎は組織の中で冷静な判断を求められる幹部として、物語に重厚感を与えています。
彼らが入り乱れる捜査シーンは、取調室の閉塞感とは対照的に、事件が現実の街で進行していることを強く意識させる役割を果たしています。
原作と映画の違い ― 静と動のコントラストが際立つ
原作は呉勝浩によるベストセラーミステリーで、全体が密室の会話を中心に進む“濃密な心理戦”として描かれています。
文章だからこそ可能な“言葉の間”や“沈黙の重さ”が効果的に使われ、読み手はタゴサクの不可解な発言の裏に潜む意図を探ろうとページをめくることになります。
映画版は、その密室劇の魅力を引き継ぎながら、捜査パートを大幅に拡張した点が特徴です。
取調室の緊迫感と、都市で同時に展開する捜査が並行して描かれ、時間が途切れることなく進行していくことで、原作にはない“体感型の緊張”が生まれています。
原作では静かに積み上げられる心理の揺らぎが、映画では視覚と音響によってダイレクトに伝わり、観客の身体に緊張が伝播するかのようです。
また、原作のタゴサクは徹底的に不気味で、一切の冗談が通じない深い闇を抱えた人物として描かれていますが、映画では佐藤二朗の個性が加わることで“笑える怖さ”という独自の色が出ました。
この変化は賛否を呼びましたが、映画という媒体に適応した“強度のあるキャラクター”として成功していると言えます。
都市の恐怖、正義の揺らぎ、暴力の根源 ― 映画が描いた本質
『爆弾』が提示する恐怖は、爆弾そのものではありません。むしろ、人が多い都市だからこそ生まれる“無関心の冷たさ”こそが作品の根底にある恐怖です。
誰もが自分のことで精一杯な街では、誰かが困っていても目を逸らしてしまう。人が多いほど孤独になるという都市特有の病理が、事件を通してあぶり出されていきます。
また、本作は「正義とは何か」という普遍的なテーマにも踏み込みます。
類家刑事が信じてきた正義の在り方は、タゴサクの挑発的な言葉によって揺さぶられていきます。
警察は本当に市民を守れているのか、正義を掲げることで人は間違いに気づけなくなることはないのか。観客自身に問いが向けられているかのような感覚を覚えます。
さらに、加害と被害の境目がどこにあるのかという“暴力の構造”にも本作は触れています。
暴力に走る人間の背景には単純な理由では片付けられない複雑さが存在し、誰もがどこかで“タゴサクになりうる”可能性を秘めているのではないかという恐怖が横たわります。
映画は派手なアクションこそ多くありませんが、静かな問いが心に残り続ける社会派スリラーとなっています。
SNSの反応 ― 怪演への熱狂と、原作ファンの複雑な声
公開後のSNSでは、佐藤二朗の怪演に対する絶賛が広がりました。
「こんなに息が詰まる映画は久しぶり」「時間を忘れて観てしまった」「今年No.1」という声が多く、取調室シーンの緊迫感や、都市を舞台にした捜査パートの臨場感が高い評価を受けています。
一方で、原作の緻密さを愛する読者の中には、伏線の整理やキャラの解釈が映画向けに調整されたことに物足りなさを感じたという意見も見られました。
ただし、肯定的な意見の熱量が圧倒的に強く、“映画としての成功”は多くの観客が認めている印象です。
ロケ地で作り込まれた“現実味” ― 東京と地方が織り成す臨場感

作品のリアリティを支えたのが、各地で行われたロケ撮影です。
東京都板橋区の「みその幼稚園」では取調室を含む室内シーンが撮影され、映画の中心となる閉塞した空気が丁寧に作り込まれました。
茨城県の新守谷駅周辺では、多数のエキストラを動員した混乱シーンが収録され、都市で突然事件が起きたときの恐怖が生々しく描き出されています。
千葉県長柄町のロングウッドステーションでは、秋葉原の爆発演出など大規模な撮影が行われました。
実際の秋葉原でも外観のカットが撮影されており、地方の広大な施設と東京の街のリアルな空気を上手く融合させることで、映画全体に“現実に起きている事件”のような緊張感が生まれています。
結論 ― 原作と映画が響き合い、テーマが深まる珠玉の社会派スリラー
『爆弾』は、原作の持つ重厚なテーマ性と、映画の持つスピード感や視覚的な緊張感が見事に融合した作品です。
佐藤二朗の怪演と山田裕貴の緻密な演技が物語の中心を強固に支え、都市の恐怖・正義の揺らぎ・暴力の根源といった深いテーマが観客の心に重く残ります。
原作を読んだ人にも新しい解釈を提供し、映画から入った人には“もっと原作を読みたい”と思わせるほどの力を持った一作でした。
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